SD

□始まりは雨
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「うわっ…」


委員会のせいで学校からの帰りが遅くなったある日の事
女の子としては有り得ないだろう表情を浮かべながら情けない声を発してしまったのは、雨が激しく地面に降り注いでいたからだった。
傘を忘れてしまった自分を悔やんでも悔やみきれない。
暗い空を眺めていると、重い、重過ぎる溜め息が自然と零れていた。
それでも必死に思考を巡らせたのは、さっさと帰宅する為である。
何故なら少ない街灯、人気のない道なのだ。家までのルートが。
ただでさえ怖い帰り道なのに雨まで降っていたら…、と考えると背筋が寒くなる。


「走り、ますか…」


両親が共働きでお迎えが期待出来ない身としては、学校に居座るのは無意味なのだ。
幸運な事に、走れば家まで15分弱である。
近い学校を選んで良かったとほっとし、思わず笑みが零れていた。
まぁ、勿論学校が近いから選んだわけではなかったが。
一度大きく息を吸い込んで。静かに吐き出す。
そして、雨の中走り出した。
いや、走り出そうとしたというべきか。


「…ぇ?」


いつの間にか、自身の手首が大きな手に包まれていた。
慌てて振り返るとそこにはクラスメートがいて。黒い傘を差し出している。
動揺が隠せずに思い切り硬直してしまったのは、突然手首を掴まれたからだけではなく目の前にいる人物が水戸洋平という有名な不良だったからだ。
ドクン、と鼓動が高く跳ね上がり、背中に嫌な冷や汗が伝う。
難癖付けられるのではないか、と不安で仕方がないのだ。
距離をとろうとしたが、うまくいかなくて。恐怖で胸が苦しくなる。


「これ使いな」
「……へ?」


纏まらない思考ではあっても一生懸命打開策を考えていたせいで、齎された言葉と強引に押し付けられた傘への反応が遅れた。
音としては確かに聞こえたのだが、何を言われたかが上手く理解出来なかったし、行動の真意も掴めなかったからである。
故に、ぽかんと口を開けたままさっさと雨の中飛び出して行った逞しい背中を暫く呆然と見詰めていた。

まだこの時は知らなかった。
次の日、おどおどしながらもきちんと傘を返した瞬間に柔らかく微笑んだ顔を見て恋に落ちてしまうなんて事は、まだ知らない――…

























(水戸+…。久々に水戸氏です。ん。しかも雨が降っていたから雨ネタです。
次の日の話をまたアップするかも、ですがまず三井君の連載もどきを完結させたいと思います。
色々すみません(^-^;))




初出し 2012/03/24 04:20

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