SD

□短めの話のバトン抜粋
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・少し大きめの傘
→は一人では大き過ぎるけれども二人だと窮屈だ。

制服に徐々に…だが確実に雨が染み込んでゆく……


「やっぱり俺出た方が……」
「あっ!や、大丈夫っ!大丈夫だから水戸君入っててっっ!!」
「…けど……」
「いいから!!」


だけど一人で入りたいとは思わないし思えない。

いつもは全然話しかけれない好きな人にやっと勇気が出せたのだ。


わがままでも良い……
もう少し………
もう少しだけこのままで………


降頻る雨に願いをかけた

少しでも近付けるようにと

願いを……
願いをかけた――…



バトン


・風が運んだのは、
→甘い甘い香り……


「……水戸君…?どうしたの?」
「あっ……や、なんでもないよ…?」
「変な水戸君♪」


クスクス笑いながら俺の顔を覗き込むクラスメートのせいで自身の頬に熱が集まってゆくのを感じる。

やばいな……
彼女の笑顔に、彼女の香りに堕ちそうだ。

ああ……
違うか………
こんな事を考えている時点で俺は彼女に堕ちてしまっているんだ。


自身で弾き出した答えに思わず苦笑が漏れた。



バトン


・目を醒ませ
→と言われても……


「なんでぇっ?!水戸君格好良いじゃん!!」
「莫迦っ!!水戸って不良だよ?あの桜木軍団の裏の支配者とまで言われてる男だよっ?!」
「だから?そんなのただの噂でしょ?だって私は水戸君が優しいの知ってるもん♪」
「あんたねぇ…!!」


友達は切々と水戸君の噂を語り出したけど、私にとってはどうでも良かった。

だって、水戸君の瞳は誰よりも穏やかで優しいもの。


私は水戸君を信じてる

ただ……
ただそれだけ――…



バトン


・空いっぱいに広がるのは
→淡い曇
儚く流れてゆく様は侘しくて…切ない。


だからなのか……

『ごめんね…?水戸君…』

哀しげに笑う彼女が嫌でも思い出される。

だが、どうする事も出来ず…自然と空に伸びた自身の手に水戸は嘲笑を浮かべた。


「……ったく……らしくねぇ…な………」


何も見ずに済むように…全ての感情を押し込めるように伸ばしていた腕をギュッと強く目の周りに押しつける。

そんな水戸を慰めるように、蝉が煩い程大きな鳴き声を発し続けていた。


まだ暑い夏は終わりそうにない――…



バトン


・遠くなるのは
→絶対貴方の側にいるせい……


「み、水戸君?」
「ん?」
「っっっ!なんでもない…」


慌てて水戸君から目を逸らす。


でも…

「どうした?」


優しく笑いながら私の顔を覗き込む水戸君のせいでまた意識が遠くなる。
反応が出来なくなる。


「…水戸君は……」
「うん」
「狡いね……?」
「え?何処が?」


驚いた顔で私を見ていても、声が動揺していても……
それが私に向けられているだけで私の意識は遠くなるし、貴方の顔しか私の脳は認識出来なくなるし、声も貴方のものしか私の耳は拾わなくなる。


「全部」
「え?全部?」
「…………うん……」
「…マジで……?」
「……………………………」


私は黙って頷いた。

そう
私の全てを麻痺させるくせに何も気付かない貴方は本当に何処までも狡い人――…



バトン


・夢中になったのは
→貴方の優しさを知ったから……


「あんまり俺に近寄らない方がいいよ?」
「なんで?」
「危ないから……」
「なんで?」
「うーん…どう言ったら良いのかな……」


困ったように眉を下げて髪を掻く水戸君に口元が緩んでいくのを止められない。


「………何笑ってんの…?」
「可愛いなって思って♪」
「……可愛いって…」


『男に言う台詞じゃないでしょ』とぼやく水戸君が愛しい。

優し過ぎるよ水戸君…
自分が不良だから側にいる私が誰か悪い奴に目を付けられないか心配してるんだよね?

わかってるけど、貴方の口から聞きたくて……
無邪気に質問を重ねてた。


ごめんね?水戸君
困らせて……

でも貴方が好きだから……
少しでも側にいたいの――…



バトン


・楽園への扉を
→貴女は開けたいと思っています。
では、貴女にとって楽園とはどんな場所ですか…?



「うーん……」
「何唸ってるんだ?」
「あ、洋平♪」


眉間に深い皺を寄せて考え込んでいた幼馴染みは俺が呼びかけるとフンワリと華が綻ぶように笑った。

何度も見た事があるのに毎回ドキンッと純情少年のように高まる自身の鼓動に苦笑が漏れる。

本当に情けない。


「あっ!そっかぁ…♪」
「なんだ?」
「や、あのね?心理テストやってたんだけど…『貴女にとっての楽園はどんな場所ですか?』って質問があったの♪」
「……それで?」
「私にとっての楽園は洋平の隣りだと気付いたわけですよ!」
「……は?!」


ほんのりと頬を染めて照れ笑いする彼女に思考が停止する。
頭の中は真っ白で……これっぽっちも言葉が出て来ない。


「だって『楽園』って幸せで楽しい場所でしょ?」
「あ、ああ…多分……」
「なら、当てはまるのは洋平の側にいる時だけだもん!」
「っっ?!」


『ダァァァッ!!なんだ?その顔はっ!手を出せと?俺に手を出せと言ってるのか?!』
思わず叫んでしまいたい衝動をギリギリで我慢する。

だが…ドンドン自身の身体や顔に熱が集まってゆくのを嫌でも感じていた。



バトン


・いつだって君は
→綺麗な笑顔で俺を見つめる

汚いはずの俺が綺麗になったかのような錯覚に陥いる程美しい笑顔で見つめてくれる…

だから……

「…水戸君?」
「……………………………」
「水戸く「何?」
「なんだか深刻な顔してたから…具合が悪いのかなって思って……」
「……………………………」
「…水戸君?」


だから不意に手を伸ばしてしまいたくなる。

欲しくて…
欲しくて堪らなくて……


「大丈夫……大丈夫だよ……」


でも、赦されはしないから…
自身の拳を強く握り締める。


ああ…
頼むから……

俺に笑顔を見せないで
俺の心配をして表情を曇らせないで……


でなければ俺は……
君を壊してしまうから………

早く…
早く俺から……
俺から逃げて………?



バトン




初纏め 2010/03/08 02:23

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