BL話
□まけないつよさ
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「・・・オヤジ」
サッチはサイズ購入ミスで寝具として使っているシャツとズボンという簡単な格好で白ひげの部屋を訪れた
白ひげは今までとは少し雰囲気の違うサッチに違和感を感じながらも、にっこり笑う
「どうした?死にそうな顔しやがって」
「オヤジ、お願いがあるんだ」
「どうした?」
サッチは今まで下げていた顔をゆっくり上げた
「俺を、殺してくれ」
時が止まったような気がした
「寝言は寝てから言えよ」
「寝言じゃない、本気だ」
白ひげは、やっぱりな・・・と内心思いながらため息をつく
「何故、そう願うんだ?」
「もういやなんだ、恐いんだよ」
「・・・」
「もう殺したくない、なんの罪もない人を殺すのも、部下を殺したいと思うのも
エースやマルコに甘えるのも、オヤジの名前に泥を塗るのも」
死にたい
でも自殺をすることは出来なかった
「馬鹿野郎・・・父親が息子を殺せるかよ」
「このままじゃ、オヤジにまで刃を向けるかもしれない!そうなったら、俺は生きていられない!!」
黒が侵食する恐怖
「こわいんだ、こわいんだよ」
ボロボロと子供のように泣く
すると関を切ったように感情が溢れだしてくる
「悪魔の実にこんな副作用があるなんて、誰が知ってた!?オヤジもエースもマルコも普通じゃねえか、なのになんで俺だけ?
こんな殺人衝動にかられるのも、自分が制御出来ないのも初めてなんだ・・・!」
「・・・」
「寝るのが恐い、いつ俺が俺じゃなくなるか分からない・・・死にたくて、でも、自殺は恐いんだ
目の前にある綺麗な海が恐い、喉元に突き付けるナイフが恐い!でも何より自分が恐いんだ!!」
白ひげはゆっくりサッチに手を差し伸べると優しく抱き締める
サッチは回り切らない手で必死に白ひげに縋り付いた
「おれ、どうしたらいいんだ?恐いよオヤジ、こわいよ・・・」
いつか、この世に出来た掛け替えのない貴方達を殺すのが恐くて仕方がない
エース、マルコ、ビスタ、ジョズ、オーズ、部下・・・そして
「オヤジ」
助けて
「助けて」
恐らくここまで恐怖を増幅しているのもヤミヤミの実の効果だろう
でもそれだけではない
恐怖、嫌悪・・・それは一度抱けば大きく腫れあがり痛みをもたらす
普通の人間だとしても
「なあサッチ、俺の息子がそんな馬鹿みてえな実に負けるとは、俺は思わねえがな」
「!?」
「俺はそんなたかだか呪われた木の実食ったくらいで死ななきゃならねえようなやつを息子にしたような記憶はねえ」
白ひげの言葉は叱るような、諭すような、慈しむような、不思議な響きがした
「おやじ」
「辛かったらいくらでも泣きに来い、恐かったらいくらでも叫びに来い
いくらでも聞いてやるし、お前にはお前を止めてくれるやつもいるじゃねえか
なあ、マルコよぉ」
え?とサッチが振り返ると、ドアに背を付けてマルコが腕組みしながら立っていた
「ったく、馬鹿ばっか言ってんじゃねえよい、サッチ」
「・・・」
「お前が苦しいときには助けてやる、俺が苦しいときには助けてくれる、ソレが親友だろい?」
「っつ」
引きかけていた涙がまた溢れだす
マルコはまったく、とため息を吐いた
「お前が馬鹿言うおかげで、泣いちまったぞ」
「え?」
「ほら、入れ・・・大丈夫だから」
マルコに手を引かれて入ってきたのは、目を真っ赤にして涙をボロボロ流している・・・
「エース」
「さっち、ぐずっ」
「ごめん、ごめんエース、悪かったから泣くなよ・・・」
「サッチだって泣いてる・・・ぅうー、うわぁああん!」
声を上げて泣きだしたエースは、年より子供に見えた
サッチは泣きながらエースをあやす
「死ぬなんて言うなよ、殺してくれなんていうなよ、ばかあ!」
「うん、うん、ごめん・・・」
「死ぬなよお・・・」
「うん・・・ありがとう」
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