5部
□ディアボロ(2頁)
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雨戸を閉めきった薄暗い室内に男と女が一人ずつ居た。
「お呼びですか、ボス。」
少女と呼ぶには成熟しているが
まだ若いその女は、恭しく頭を下げた。
男は自分の存在を他人に知られる事を極端に嫌ったが、
彼女だけは別だった。
傍に置いてどんな用も彼女に任せ、信頼を寄せていた。
或いはそれは建前で本当は恋をしていたのかもしれない。
「サルディニアへ行こうと思うのだが…」
男は手招きして女をさらに近くへ呼び寄せた。
「ご自分で手を下されるのですね。」
男には若い頃、サルディニアにひと夏だけつき合った女があった。
その女には娘が一人いるという。
自分の血を継ぐ娘だという事は直感で解った。
何より保身を大切にする男だったが、
いくら会った事もないとは言え
実の娘に手をかけるのは多少心が痛むのか、
いつになく弱気に見えた。
「生かしてはおけん。
自ら出向いて始末せねばならない。」
女は自分の腹部にすがりつき蹲った男に
憐れむような視線を送った。
これが彼女でなければ、
この自尊心の高い男の怒りをかっていただろう。
どうしてそこまで見えない敵に怯えるのか、
女には到底理解できないが、
ただ自分は彼に従うのみだと考えていた。
善悪などどうだって良い。
ただ男が満足するのならそれが彼女にとっての正しい道だった。