03/05の日記
22:02
Merry
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本当に欲しかったものなんて、
―――――ここにあるの…?
「泣いてるの?」
ぼんやりと目の前を眺めているこの女に向かって、思わず俺はそう問うてしまった
声に出してから『ああ、まずい』後悔をしたが、出したものは口には還らず、視点の定まらなかった彼女の顔がゆっくりと此方に向けられる。そうしてすぐに、彼女の顔がみるみるうちに歪んでいくのが分かった
…嫌な顔を微塵も隠そうとしない彼女の潔さというか何というか。というより、むしろ多少は取り繕うべき部分なのではないだろうか
仮にも――…同僚だ
気付かれかことによって隠れる意味を無くした俺は、大きな溜息を吐きながら彼女の傍まで寄る
拒絶の顔を向けていた彼女は、ぷいっと再び宛てもなく視線を逸らした
『ちょっと、』
思わずそう咎めると、今度は視線だけで此方を威圧してくるように俺を見る
「…なに」
「人が心配してるのにその態度はないでしょーよ」
「頼んでない」
…可愛くない
素っ気ない彼女の言葉にがくりと折れそうな心を奮い立たせ、拒絶のオーラを隠そうともしない彼女に構うことなく、隣に腰を下ろす
そうまですると、彼女が諦めるのはいつものこと
二人黙ったまま、火影岩の天辺で緩やかに流れる里の雰囲気を上から眺める…心地よい空気だ
ふと、風に流れるように隣から小さな声が聞こえる
何だろう、
そう思って隣を見ると、彼女が小さく呟いているのが分かった。小首を傾げると、それが視界の端で見えたらしい彼女はちらりと俺を見やった、それから再び口を開く
「例えば、」
「―…うん」
「世界に一人きりになったとして」
「…ん」
「誰も私のことを知らなくて」
「…」
「そのまま知らない顔で全てが収まってしまったら、」
――…どうしようか?
迷う言葉は声に成らず、緩く動いた唇がそう象ったのが見えた
珍しく弱気な彼女の言葉に、跳ね上がりそうなほど嬉しくて、だけど切なくて
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