企画

□全てが、手後れなのよ
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「見て見てー」

「充分見えるわ」











手放しで嬉しそうに(と言うよりは楽しくて仕方ないんだけど)、目の前で跳ねて見せれば、彼女は俺を一瞥して溜め息を吐く

そんなんじゃ幸せが逃げるさぁ、と呟けば彼女は口角を上げる



少しだけ冷たさを孕んだ、彼女のこの独特な笑い方が好きだったりする













「そうね、逃げても良いかもね」

「つれない」

「仕様がないでしょ、」











くるりと一回転して、自分が纏う黒いローブを俺に見せつける

翻した裾がぱたりと音を立てた


彼女らしい、と言えば全てが愛しくなってしまう俺はきっと病気なんだろう

目を細めて彼女を見やる
こういう状況だからだろうか、幻想的な出で立ちは、今にも何処かへ消えてしまいそうだった














「私は死神なんだから」

「今は。だろう?」

「…大して変わらないよ、普段だって」

「俺は好きさ」

「物好き」

「何とでも」














毅然と言い放てば、彼女は少しだけ頬を緩ませて赤に染め、『知らない』とそっぽを向いた

そんな様子に、今度は俺の方が頬を緩ませる


俺の身体より幾回りか小さいその身体を、後ろから抱き締めた



小さくぴくりと震え、腕の中へと収まる














「皆が見てる」

「見てない、俺とお前の二人さぁ」

「馬鹿ラビ」

「光栄だな、死神さん」

「…意地悪」












拗ねたように口にして、俺の胸に擦り寄る頭

ふんわりと、優しい匂いが鼻孔を擽る





…これが死神だって?

そう頭の中で呟いて、苦笑を洩らしたのは、『それなら悪くない』と思えたから


だってそうだろう、
これだけ甘い夢を魅せられて逝けるのなら、どんな冥土の土産にだって敵わない














―――――とん、

自分の考えに耽っていると、不意に軽く胸を叩かれた

首を捻って腕の中を覗き込めば、ぷくっと頬を膨らませた彼女が俺を見上げる














「何、考えてたの?狼男さん」

「俺の思考に嫉妬かな?死神さん」

「私のこと考えてる?」

「勿論」














ちゅ、とリップ音を立てて額に唇を落とし、そのまま彼女の髪に顔を埋める

死神、らしくない暖かさ









問うたら、応えてくれるだろうか

























「俺は地獄に堕ちる?」

「怖いの?」

「そりゃあ、」

「安心して」











顔を上げる
ふっと彼女が微笑んだ

綺麗な、綺麗な笑顔
病的な思考でさえ、それを甘美な響きとすら感じてしまうのは。
























































(自分だけ、天国に逝けるだなんて考えていないでしょう?)
(浅はかな想いすら抱けないほどに、俺達は固く結ばれてるって?)
(前向きね)
(どうせ結末が決められているなら、楽しんだ方が勝ちさ)
(そう、)
























(どうせならそんな余生も悪くない)




























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