企画

□どうやったって一人勝ち
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現ぱろ


























「No way…」


「往生際が悪い」


「もっと言い方は無ぇのか」


「辛辣な言葉で良ければ」


「…No thank you,please」














隣で意気揚々と準備を始めている女…紛れも無く俺の女のはずなのだが、先程から浴びせられる言葉の数々には、どうも愛が感じられない

…もっと、こう、さ…



内心、ひっそりと落ち込みながらも、嬉しそうな彼女の顔はやはり俺にとっては一番の栄養剤で。

本当、俺って損してるよな…





はああ、と大き目の溜息を吐いていると、隣からじとりと睨まれる

『辛気臭い』との暴言(嫌味でもなんでもなくこれは事実だ)を鼻で笑い、彼女の手元を覗き込む


ぴくりと跳ねた肩を、俺が見逃すわけが無い


















「雰囲気が出ていいだろう」


「面倒なだけでしょう」


「Ah…そりゃ確かに。望んだ訳じゃ無ぇからな、誰が好き好んでやるかよ」




























『お化け屋敷のお化け役なんか。』



真っ白い布切れを繕う彼女には悪いが、かなり面倒だ(むしろ文化祭とかなくなればいいと俺は思う)

…あそこで、あの棒を引かなければ。





後悔の念に唸っていると、『出来た』の一言と共に立ち上がる彼女

ぴん、と肩を張って長さを測るように、俺の肩に繕った着物を押し当てる























「くじなんだからしょうがないでしょ」


「じゃあやるよ、好きだろ、当たり」


「やだ、そんな貧乏くじ」


「…お前」


「うん、政宗似合うー、格好良い」


「…」




















絶対策士だ、こいつ。
かちんときたこの怒りも、膨らんだり萎んだり…本当、俺ってこいつに骨抜きだな

単純な『格好良い』の台詞に、情けなく口籠もる俺を気にするわけでもなく、彼女は即座にその着物を押し当て、着てみてと強請る


…、着てみてって





















「今?」


「そう、今」


「別に今じゃなくても」


「本番しか着ないつもり?」


「…」


















Oh、ばれてる

再び、じとりと睨まれ、白い着物を眺めながら溜息を吐く…マジか。


『当日は小十郎さんも来るんだからね!』
の言葉に、更に頭が痛くなる

…暫く唸った後、譲歩するように提案を出す

















「OK、こうしないか」


「何よ」


「お前が俺を着替えさせる…you see?」


「変態政宗」


「良くお分かりで」





















よし、これは俺の勝利らしい

証拠に、憎まれ口を叩く彼女の顔は真っ赤に染め上がっていたが、けして拒否の言葉は出てこなかった

やばい、顔が緩む


じゃあよろしく、と両手を拡げていると、がらりと襖が開いた

…勿論、彼女は此処に居て、俺は部屋の真ん中で両手を拡げているのだから二人のどちらでもない



ひくり、と口端が引き攣る
こういう時のこいつは、マジで何処かで見てるんじゃないかって思うくらいの良いタイミングだ
























「…何をなさっているのでしょうか、政宗様」


「…、着替えだ」


「…彼女にさせる気ですか」


「嫌とは言われてねぇ」





















両手は拡げたままで、ちくちくと刺さるような小十郎の視線を受け止める

批難をするようなこの視線の理由は、ただ一つ


彼女に無理強いをするなときつく言われているからだ(思えばこいつは俺の女のはずなのに、どうしてか小十郎に怒られる)

で。
今の状況を推測する辺り、無理にさせている、と思い至ったのだろう…俺に対する信用が無さ過ぎじゃねぇか、小十郎



と、自分に忠実なはずの男に怒られやしないかとどきどきしていると、小十郎はくるりと彼女を振り返る

赤い顔をした彼女が、ぴくりと身体を揺らす





『本当ですか?』
と口にせずとも問い詰められるこの迫力は流石だと思う(羨ましいとは思わないけど)

その視線に耐えかねた彼女は、慌てたように言葉を取り繕う



















「嫌じゃない、とも…言って、ない」


「…政宗様…?」


「おー…Jesus、」















どちらとも取れる彼女の曖昧な言葉に、小十郎のぎらりとした視線が俺に突き刺さる

それはちょっと…いや、かなり不公平って言わないか?


小十郎はこいつに甘すぎる。本当に


拡げていた手をすとんと落とし、右手で自分の額を覆う…駄目だ、どうやっても勝てない

















「OK、俺が悪かった」


「…お灸が必要でしょうか?」


「…(まじか)」


「小十郎さん、」


「?何でし――…」






















―――――むに、







実際にそんな音がしたわけではないが、目で見る限り、そんな効果音が相応しい光景だったと思う

彼女が、小十郎の腕に抱きついた
勿論、身体を寄せているから密着している訳で。









鈍器で頭を殴られた気分だ
























「政宗のこと、許してあげてください」



























































(…反則技ばっかりだな、オイ)
(お手上げ、ですね流石の政宗様も)
(まぁな…で、小十郎)
(はい、何で御座いましょう)
(いつまでその状態で居るつもりだ)
(…)




























(抱きつくなら俺一人だろうが――…!!)











































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