企画

□居たいのは君の隣なのに!
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「じゃーんっ」


「…ねぇ、何やってるか俺様聞いても良いの?」














懐の忍具を整理していると、両手を拡げ、嬉々とした声を上げながら目の前に現れた彼女に、俺は思わず頭を抱えた



余り城からは出ず(たまに夜に脱け出してはいるが)

誰ぞ知る、かの甲斐の虎の一人娘という確固たる地位をその身に承け(旦那を投げ飛ばす様とか本当大将そっくり)

立てば芍薬、座れば何とやらと褒め称えられる見目(口を開けば全てがぶち壊し)











そんなかの人が、目の前に現れ、しかも纏うのは黒装束

…頭を抱えないわけが無い





はあぁ、と大きな溜め息を吐いてから手に持っていた短刀を置き、さて何処から突っ込もうかと考える

そんな俺の時間差に痺れを切らしたらしい彼女は、今度は拡げた両手を腰に当て、ぷくうっと頬を膨らましている


どうやら時間切れらしい















「じゃーん!」


「いや…じゃーん、は分かったからさ」


「何よ、佐助ってば反応薄いなぁ」


「俺様にも限界ってものがあるんだよ」













ほんと勘弁して

旦那とか大将とか、
旦那とか大将とか。
俺様を休ませるということを知らないのかなっていうより俺様を何だと思ってんのかな忍なんですけど?仮にも真田忍隊頭なんですけど?団子の御使いとか有り得ないと思うんだよね殴り愛とか迷惑掛からない場所でして貰えるかなぁ、ほんと。





…はぁ。

心の内で一気に愚痴をぶちまけ、最後には盛大な溜め息を吐いて項垂れた

俺様、何でこの軍に居るんだろう














「その上、姫様まで訳分かんないことしないでくれる?」


「…佐助が荒んでる」


「今更だよ、」












むうぅ、と少しだけ拗ねたように眉を寄せながら呟いた姫様にそう告げ、自分の境遇を思い返しながら切なくなる

…姫様くらいはまともに育って欲しかったんだけどな、俺様


ほろりと流れる涙など無視して、目の前にずずいっと突き付けられた掌

一瞬、それに目を落とし、再び姫様へと視線を向ければ、口を尖らせた彼女



『なに、』と問う前に、彼女の方が先に口を開いた














「とりっく、おあ…とりーと!」


「…はい?」














拙い台詞が飛んできた。
思わず上がった素頓狂な声に、変に真面目な姫様はもう一度口を開こうとするもんだから、慌てて制止を掛ける

先程の意味不明な言葉で、全ての謎が解けた


そうか、
あいつが原因か















「竜の旦那とは遊んじゃ駄目って言ったでしょ!?」


「政宗はいい人だもん」


「俺様にとっては居ない方がいい人なの!」


「えー」


「その格好も旦那の入れ知恵でしょうが」


「お祭りだよ」


「聞いたことないって」


「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞってお祭り」


「何その押し付け祭」













得意気に話す姫様には本当悪いけど、その祭りの意味が全くもって見出だせない

…子供が楽しむ分には良いだろうけれど



そんな祭り、知ってるのは竜の旦那くらいだし














「仮装もするんだよ」


「…一体何の仮装なの、それは」













単なる黒装束にしか見えないんだけど?

と付け加えれば、姫様は途端に頬を膨らませ、ずいずいと俺に詰め寄る


あ、良い匂いがする…じゃなくてさ!













「姫様、近い」


「鈍感な殿方は嫌われるよ!」


「…じゃあ何なのさ」


「同じ」


「はあ?」


「佐助と同じ、忍ですよー」











強調するように言った後、俺の目の前でくるりと一回転する彼女

言われれば、そう見えなくもない…?と曖昧に頷いていると、姫様は腰に手を当てる



仁王立ちしようが、元々が小柄な姫様は、どうやったって可愛い人形にしか映らない

あれ?色眼鏡?
あはー、俺様ってば私情挟み過ぎ















「佐助と同じなんだよ?」


「姫様、忍になりたかったの?」


「――…っ、佐助の分からず屋!」






















































(佐助を守れるからに決まってんじゃん!)
(…駄目だってば)
(どうして?私だって、佐助のこと大好きなのに)
(俺様の腕の中に居てくれなきゃ、落ち着かないでしょ)
















(この両手はあんたを守る為に存在するんだからね)





























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