企画

□Be with you!
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人に優しく出来るのは、
人一倍悲しみを知っているからだと

教えてくれたのは他の誰でもない、貴方でした。

愛されることよりも、
愛すことを選んだ君を真似て、今日も君を想います













…さて、どうしようか

頭の中でそう呟いて、眉を寄せた

呆れるくらい優秀な自分の能力を呪ったのは何も今日に限ったことではない

目の前に転がる物体にさて如何したものか頭を捻る…とりあえず、何か違うことを考えるのも面倒だった俺は、いつも通り転がるこいつの頭を蹴ってみる

ごす、
やや鈍い音が響いた後で、少し時間を置いてから『あっ――…!!』と悶絶する声が聞こえる。それを綺麗に無視して、腕組をしたまま冷たくソレ、もとい、彼女を見下ろす

いたた…、と大袈裟に頭を摩りながら体を起こす彼女は、へらりと顔を緩ませてから口を開く…大凡、先ほど俺に一方的な暴力を受けた人間の台詞とは思えないほどの穏やかさで。







「もう、痛いじゃないですか」

「そこで転がっているお前が悪い」

「へへ、そうでした」

「…」







特に怒りを露わにするわけでもなく、軽くそう言い放つと、彼女はやれやれと立ち上がり、自分の裾についた砂埃を払うと、俺に向き合った

にこり、
そんな音がしそうなほど満面の笑みを俺に向けて、特に文句も言うでも無く、ただ一言『どちらへ行かれるんですか』と口にした

…一体何が可笑しくてそんな笑顔を俺に向けられるんだろうかと頭の隅で考えて、別に、とぶっきらぼうに言い放ち、彼女が寝転がっていた場所から逃げるように背を向ける









「んふふー」

「…気持ち悪い笑い方しないでくれる?」

「ああ、すみません、つい嬉しくて」

「打ち所が悪かったかな、責任なんて取らないけどね」

「相変わらず冷たいですね、カカシ先輩」

「先輩なんて止してくれない?俺、お前に何かを教えた記憶なんて無いしさぁ」

「人生の先輩じゃないですか」

「…少なくとも俺は真似したくない生き方だけどね?」







俺の人生なんて。




吐き捨てたように呟けば、彼女はきょとん、とした顔をしてから、すぐにまたあの緩い笑顔を向けてくる


けれど、何を口にするでもなく、ただ黙ったままこちらに笑顔を向けてくる
…しばらく無視をしたまま放置していたが、ずんずんと先を歩く俺にぴたりと足並みを揃えてついてくる彼女は、尚も黙って笑顔を携えている


『気持ち悪いんだけど』と小さく抗議してみると、意外にも聞こえていたらしい彼女は、のんびりとした口調で『えぇ、酷いですねぇ』と答える


一体どこまで付いてくる気なのだろう、と考えたところで、すぐに無駄な考えだと頭を振った。どちらにせよ、問うたところで彼女は『どこまででも』とふざけた答えを真剣な顔で返してくるだけなのだ


だったら、諦めて黙る方が得策だと、何度も彼女と関わることで出した俺の結論だ


















ざくざくざく…
二人分の足音が、決して穏やかとは言えない森の道に響く

こんな、木の葉の里から外れた森の中で、大の大人二人が無言のまま歩いているだなんて一体どんな異様な光景だよ…なんて自分の状況を振り返り、人知れず突っ込みを入れる










悶々と考えていると、不意に背中に感じていた気配が消える

振り返れば、先ほどまで後ろにいた彼女の姿が消えていた
が、別に彼女自体の気配が消えたわけじゃない


忍びでも無い彼女は、気配を断つことは出来ない

茂みに飛び込んだらしい彼女を、さて放置しようかどうしようかと考えたところで、彼女ががさがさと茂みを掻き分けて再び姿を現した





『ご心配をおかけしました』
緩い笑顔を向ける彼女がそう口にする


今度は『別に、』とは口にしなかった
珍しく、彼女に歩み寄って『何してたの』と問えば、彼女はナニカを抱えた両手を、少しだけ開いて俺に見えるように傾けた

彼女の腕の中で蠢くナニカを見つけて、『うわ、』と驚いた声を上げてみせると、彼女は少しだけ頬を膨らませてから、恨めしそうに俺を見上げている…いや、別に嫌ってわけじゃないんだよ?と言い訳染みた台詞を口にすると、膨らんだ彼女の頬から、ぷう、と息が漏れた













「なかなか居ないでしょ、平気で雛鳥を素手で触れる女の子」

「触っちゃダメでしたか?」

「…そうじゃないけど」

「こういう子は嫌いでしたか?」

「…、嫌いじゃないよ」

「ふふ、だったらいいです」












一体何がいいのだろう、と思ったが、あんまりにも彼女が嬉しそうだったから特にそれ以上は追及しなかった
ここまであからさまな好意を示されて、嫌な人間はどこに居ようか

現に、この俺だって、彼女の見返りを求めない無償の好意に絆されているのだから。
でなければ、面倒くさがりの俺が、何度も構ったりはしない





熱くなった頬を手の甲でごしごしと拭い、その手で彼女の頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細めて微笑んだ
その光景が何故か懐かしく感じて、俺はふと、彼女を撫でる手を止める

そうすると、気持ちよさそうに細められていた瞳は、今度は丸くなって俺を見つめる
…何だろう、違和感?

『違うな』と呟いて、自分の心に湧きだしたもやもやの正体を突き止められずに眉を寄せていると、不思議そうに俺を見上げていた彼女が小さく俺の名前を呼ぶ


何でも無い。
そう口にしようとして、唇を動かす…が、口をついて出たのは、俺の予想していた言葉では無かった











「お前…何処かで会ったっけ?」

「…」













少しだけ沈黙した彼女
ざぁっと吹き付けるような風に、一瞬の彼女の表情を見落とした。どんな表情をしていたのか分からなかったが、一瞬だけ…本当に一瞬だけ、いつもは明るい彼女の雰囲気が変わった気がした

風が止んだ頃には、目の前の彼女はもう、いつもの表情に戻っていて、にこりと微笑んでみせる












「何処かって?いつも会ってるじゃないですか」

「いや、そうじゃなくて…」














不自然な彼女の笑顔に、俺はそれ以上の言葉を繋げなかった
『…気のせいだな、』
そう思い込み、何でもないと短く告げると、踵を返して再び歩き始める

『そうですか』と弾んだ声で返答した彼女も、それ以上何も問うてくることはなかった




























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