企画

□伝えたいことは何一つ届かない癖に
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自分らしさ、
大切にすればいいんじゃない?

っていう言葉を信じて生きてきたのに。



























「や、姫様の場合は自分らしさって言うか俺様街道まっしぐらなだけだから」











少しだけ真剣な顔を見せて、そう口にしたけれど、どうにもこの男には通用しないみたいだった…作戦失敗か、と舌打ちをすると胡散臭い笑い声が聞こえる

振り返れば、あの乾いた佐助の笑顔










「俺様を騙せると思うなんて、姫様もまだまだだよねー」


「薄給忍者が偉そうに」


「ん?何々、良く聞こえない」


「…」
















八つ当たりのように悪態を吐くと、くるくると回るあの手裏剣をちらつかせながら最高の笑顔を見せ…見せ付けてくる

何、この威圧感。
これ以上は危ない(主に身の危険を感じる)気がしたから、私は大人しく口を閉じた


そんな私に満足したらしい佐助は、物騒な武器を服の中に仕舞い込む(いつも思うけど、あの服の中って絶対、異次元だよね)

ほっと一息を吐いていると、本題を忘れてなかったらしい佐助が一歩近付いてくる

















「さ、観念しなよね」


「…しつこい男は嫌われるよ」


「男を知らない姫様に言われたく無いな」


「破廉恥忍者」


「本当、阿婆擦れ姫といい勝負だね、あはー」


「従者としてどうなの、その台詞」


「だったら、主人として振舞ってくれるかな?」
















ああ言えばこう言う
二人で口論を続けながらも、佐助はじりじりと間合いを詰めてくる…逃げ場が段々無くなってきたな

眉を寄せながら、隅の方で、私達の攻防を見ていた幸村に顔を向ける

幸村がびくりと肩を竦ませた





















「助けて幸村!」


「そ、某でござるか…!?」


「ちょ、俺様に敵わないからってそれは反則でしょ」


「佐助が苛める!」


「本当、往生際が悪い姫様!」


「ゆーきぃーむーらー!」


「な、なれど…!」
















幸村を責め立てるように叫んでみるが、幸村自身も佐助の味方なのか、行動に移してはくれない

その間にも、佐助は間合いを詰めてくる
そしてついに、腕を掴まれてしまった…ていうか凄い力で握られている気がする

















「もう!浴衣ぐらいでうだうだ言わない!」


「嫌だ!」


「祭りに行きたいんでしょ!」


「袴でいいじゃん」


「だーかーら、仮にも真田の姫が、そんな格好を民衆に見せられないでしょうが」


「お忍びで、」


「とっくに面割れてるっての」


「ゆぅーきぃーむぅらぁっ」


「旦那に頼らない!」














赤い浴衣を押し付けられながら、嫌嫌と首を横に振るが、佐助は中々諦めてくれず。
幸村は助けてくれず、おろおろと私達を眺めているだけだった

むう、と頬を目一杯膨らませて、恨めしそうに佐助を睨むが『あー怖い怖い』と白々しく口にしている辺り、無駄な抵抗なんだと思う


渋々、押し付けられた浴衣を握り締める
『皺になるからあんまり掴まないで』って本当にお節介だなぁ!




べ、と舌を出して佐助に嫌がらせをしていると、幸村が私の名前を呼ぶ

『何』と口を尖らせて幸村を振り返れば、少しだけ赤い頬




















「そ…俺は、浴衣を着た姫と行きたいでござる」


「…」


「ほら、旦那も見たいってさ」


「…」


「その浴衣は、貴方に似合うと思って…」


「…」


「わざわざ選んだんだよー?旦那が」


「…」


「…」


「…」
















暫くの沈黙が続いた

睨むような私の視線に、二人とも怯む事無く返し続けている。が、とうとう折れたのは私の方だった






『……着る』







の、可愛げのない一言と同時に、捲くし立てるように頷いて『そっかそっかじゃあ俺様達は邪魔だよね外で待ってるうん旦那外に一旦出ようかまた後でね姫様!』と去っていった

…負けた、
と肩を落として、押し付けられた赤い浴衣を眺める


幸村が、選んだ












「しょうがないな、」





























































真っ赤な浴衣に袖を通して、幸村と佐助、二人が待つ城門まで小走りで行く

こういう時に急げないから、女の着物は嫌なのだ…が、今日は仕方が無い

なんていったって、幸村が選んでくれた浴衣だ。滅多にない彼からの贈り物…自然と頬が緩む気がした



からんころんと下駄を遊ばせ、二人の姿が見えて思わず手を振る

二人ともすぐに気がついて此方を振り返った















「うん、良いんじゃない?」


「…何その中途半端な感想」


「えー、我侭だなぁ…旦那、姫様が感想欲しいってさ」


















思ってはいたけれど、随分と淡白な言葉に、私の頬は膨らんでいく

緩い笑いで、佐助が幸村を振り返る
私もつられて其方を向くと、頬を赤く染めた幸村が居て。私もつられて頬が熱くなってしまう













「…っ」


「ゆ、幸村?」


「――…馬子にも衣装でござるなっ!」

























「…」


「…」


「…」


「帰る」


「え、ちょ…姫様?!」


「死ね幸村!」
































































(口は災いの元…本当そうだね)
(…某、立ち直れそうに無いでござる)
(可愛いって言いたかったんでしょ?素直に言えば良かったのに)
(政宗殿みたいに、か?)
(…あれは真似しちゃ駄目だってば)
(さすれば如何して…)
(ほら、今すぐ追いかけて林檎飴でも買ってあげなよ)

























(――――ぐずぐずしてると。俺様が奪っちゃっても知らないよ…?)











































































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