立海一家シリーズ
□立海一家と御近所さん達 弐
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【KonomiFestival】
ドーン、と。朝から花火の音が聞こえていた。
今日はKonomiFestival。立海一家が暮らす木の実の地で行われる、大規模なお祭りだ。
会場のこのみ公園は、出店でいっぱい。
広場では様々な催しがあり、野外ステージでは仮面ファイターSWのイベントも行われていた。
「すっげー!かめんふぁいたーがいる!」
「シードもウィンドも本物だぜぃ!」
「見ましたか雅治君!?あれが已滅無ですよ!敵の攻撃を無にして勝利を戴き☆ですよ!」
「やぎゅ…はしゃぎ過ぎじゃ。あっち向いてホイ、ぜったい勝つぜよ……ピヨッ」
因みに此の祭りは鬼楓組と鳳凰会も協賛している。このみ公園はそれぞれのシマのちょうど真ん中に位置しているのだ。
「皆、残念だったね…」
しょぼんとした子ども達に、幸村が声をかける。
『シードとあっち向いてホイ☆対決』に参加した三人だったが、赤也とブン太は早々に負けてしまい、雅治は良い所まで続いたものの、あと一歩、敵わなかった。
立海道場は常勝が掟であるが、流石の真田も、自身が『あっち向いてホイ』を苦手としている事もあり、叱咤する事は出来なかった。
「ん〜でも、握手して貰ったし、サインも貰ったからいいや」
そう言って、ブン太はサイン入りの仮面ファイターカードを掲げる。
「良かったじゃねぇか、ブン太」
カードは参加賞なので、全員が貰えたのだ。それをジャッカルに自慢げに見せ、ブン太はガムを膨らませた。
「うぃんど やさしかった!あたま なでてくれたっ」
カードを大事に持ち、赤也も嬉しそうに話す。
「ほう、仮面ファイターウィンドは頑固者で口が悪い印象があったが……そうか、優しかったか。良かったな、赤也」
赤也の癖っ毛を見て何か感じるものがあったのだろうかと、柳は推察していた。
「雅治君、残念でしたね。ですが、素晴らしい戦いでしたよ」
「プリッ…」
一方、雅治はまだ御機嫌斜めだった。
もう少しであの仮面ファイターシードの変身ラケット(非売品)が貰えたのに……と。
「賞品は獲得出来ませんでしたが、参加賞だって素敵じゃないですか。サイン入りの仮面ファイターカードなんて、滅多に手に入りませんよっ?」
「ほしいなら、やぎゅうにやるぜよ」
「えっ!?」
「好きじゃろ?仮面ファイター」
自身によく似た、雅治の切れ長の瞳が見上げて来る。
柳生は差し出されたカードを一瞬見た後、すぐに首を振った。
「いいえ!これは雅治君が頑張った証です。私が戴くなんてとんでもない!」
「がんばらなくても、参加すれば貰えたやつじゃ」
「それでも、このカードは雅治君のものですっ」
きっぱり言い放つ柳生を見て、雅治は微かに笑みを零した。
相変わらずおれのホゴシャは真面目さんじゃなぁ。
「じゃあ、おれが持っとくけぇ、やぎゅうが見たい時は見せてやるかの」
「本当ですか雅治君?!」
「あ、牛串焼き買ってくんしゃい」
「買いましょう!何本でも買ってあげます!」
雅治の手を掴み、一目散に屋台へと駆けて行く柳生。
それをしょうがないなぁと眺めながら、幸村は目線を下ろした。
「赤也とブン太は、何か欲しいものはあるかい?」
「えっとね、うぃんどの おめん!」
「おれはチョコバナナとクレープと焼きそばとたい焼きとフランクフルトとイカ焼きとリンゴ飴とこんぺいとうとカステラとたこ焼きと広島焼きとポテトのぐるぐるしたやつ!」
「ブン太、それは食べ過ぎ」
「だってゆきむらくん!ほしいものって言ったじゃん!?」
だめ、と。再度幸村に窘められたブン太は、むーっと頬を膨らませた後、勢い良く振り返った。
「ジャッカル!」
「俺かよ!?」
「ジャッカルは、買ってくれるよな?」
うるうるとした大きな瞳に見つめられ、ジャッカルは答えに困窮した。
ブン太はこの歳で既に、自分の顔立ちが整っている事や、どんな表情をすれば可愛くまたは格好良く見えるのかを理解している。
「おれ…腹へった。ジャッカルぅ……」
ブン太がジャッカルの服を掴む。
ジャッカルが陥落する確率97%。誰に言うでもなく柳が独りごちた。
「……さ、流石に全部はダメだぞ?」
「やったぁ!ジャッカルだいすきだぜぃ!!」
ジャッカルの手を取り、まず始めにクレープの屋台に向かいながら、ブン太は思った。
やっぱおれって天才的ぃ!
「程々にしておけよ、ブン太」と柳が声をかけたが、果たしてジャッカルはどうなってしまうのか……。
「ぬるい!ぬる過ぎるぞジャッカル!!」
「そんな事言って、真田だって赤也にあんな風にお願いされたら、きっと断れないよ?」
「ね〜?」と赤也を抱っこして、幸村が言う。
「何を言う幸村!俺は彼奴らのように甘くはないぞ!!」
「そう。じゃあ赤也、真田にお面買ってってお願いしてごらん?」
「へっ!?」
幸村の手により、真田の正面に降ろされた赤也は至極狼狽した。
お面は幸村が買ってくれるものだと思っていたし、何か強請るとしたら、いつもは柳だ。
真田は(日常では)立海家で一番厳しいし怖い。赤也はおずおずと、その真田を見上げた。
「…あ、えっと……」
「何だ、赤也?!」
「ひぇ…っ」
真田は、赤也がお願いしてくるのを待っていただけだった。
しかし赤也には、その眼差しが怖かった。
「赤也、大丈夫だから。真田に欲しいもの言ってごらん」
このままだと真田が「はっきりせんかー!!」と怒鳴りつけそうなので、幸村がそっと耳打ちする。
赤也は眦を決した。
「さなださんっ」
弦一郎が陥落する確率、96.5%。今回は口には出さなかったが、柳は代わりに口角を上げた。
「かめんふぁいたーうぃんどの、おめんが ほしいっす。さなださん…かって?」
少し間違えたら、泣き出しそうな表情だった。
「そんなに、欲しいのか?」
「あのね、さっき うぃんどが やさしくしてくれたの!それにね、かめんふぁいたーに なったら、さなださんみたいに つよくなれるかもだからっ…」
「おめん ほしい」と、幼児の無垢な瞳に見つめられ、真田が僅かに表情を崩したのを、幸村は見逃さなかった。
「……そ、その面は何処に売っているのだ!?」
「へ?あっち…」
「何をしている!行くぞ赤也ァァァァ!!」
「わっ…うわぁああぁ!!?」
ひょいと赤也を片手で抱え上げ、雷霆の如くお面屋に向かった真田に、幸村は爆笑していた。
「見たかい蓮二?真田のヤツ、でれっでれじゃないか!あ〜可笑しいっ」
「ああ、メロメロだったな」
「でも、真田みたいにってのは、ちょっと引っかかったけど」
何で“俺みたいに”じゃないんだろう?
真田から仮面ファイターウィンドのお面を手渡され、喜色満面の赤也を眺めながら、幸村が呟いた。
「赤也の闘いごっこの相手をしているのが、弦一郎だからだろう。精市、お前は赤也の攻撃を受けても倒れてはくれないからな」
「だって簡単に倒れたら面白くないじゃないか。俺は戦隊モノのラスボスみたいなのを演じてやっただけなんだけどな」
「『その程度の技では俺を倒す事は出来ない。いい加減諦めたらどうだい?』などと言うお前が相手では、戦意を喪失してしまう。稽古なら兎も角、ごっこ遊びで赤也をイップスにされては困るな」
溜息を吐く柳に、幸村は「はーい」と子どもみたいな返事を返す。
そして、お面を頭に付けて戻って来た赤也を、両手で抱き上げた。
「さなださんに かってもらったーっ」
「うん。良かったね赤也。格好良いよ!」
「へへぇ〜」
「精市の言う通りになったな。弦一郎」
「くっ…俺とした事が……」
「誰でも子どもは可愛いものだ。仕方がない」