立海一家シリーズ

□立海戦隊 絶対王者 <ゼッタイオウジャー>
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【壱】


「やっべぇ寝坊したー!!」

うぃっス!俺の名前は切原赤也。中学2年生のグッドルッキングガイ。
立海大附属中テニス部の次期部長。
噂の2年生エースとは俺の事っス。

俺は今全速力で走っている。朝練に遅刻しそうなんだよ!
昨日夜遅くまで格闘ゲームをしていて、今朝起きた時には、なんと朝練の20分前!パンをかじりながら慌てて家を飛び出した。

現在7時まであと3分。このままじゃ朝練に遅れちまう。真田副部長に怒られる!……そう思っていた時――

『赤也!キサマ今何処におるのだ!!』

「おわっ!?真田副部長?!!」

制服のポケットに入れてあるケータイから、真田副部長の怒声が響いた。

「そんな怒鳴らないでくださいよぉ〜もうすぐ学校着くっス!朝練には絶対間に合わせますからっ」

『たわけ!これは緊急連絡だ!』

「へっ?」

『事件発生だ。赤也』

副部長に続いて、柳先輩の声がした。

俺の携帯電話は、見た目はただのスマホなんだけど、緊急時にはレギュラーの先輩達全員と通信が出来る、通称立海ケータイ(と俺は呼んでいる)。
他にも様々な機能があり、携帯電話の域を超えた連絡ツールだ。…って柳先輩が言ってた。

そうだ。このケータイがこんな風に使われるのは、立海戦隊の出動命令の時。

『現場は学校だよ。赤也、30秒で来い』

「イエッサー!!」

幸村部長の命令で、俺はフィンガーリングウェイツをはめていた右手で、左手のパワーリストを掴んだ。

「常勝 立海!!」

そう叫ぶと、俺の秘めたるエナジーがパワーリストに注がれ、立海のエンブレムが浮かび上がる。
その直後、俺の身体は赤い光に包まれて、制服が戦闘用スーツに変わった。

テニス部のレギュラーウェアに似ているが、どんな攻撃にも耐える特殊なスーツらしい。そしてジャージは赤だ。レッドだからな!
同時に、俺の身体能力を何十倍にも高めてくれる。おかげで俺は本当に30秒で立海大附属中学校に到着した。

力の漲る身体は熱くて、目は、充血していた。

「テメーら!俺達の本拠地で暴れるとは良い度胸だな!この立海大のエースが黙っちゃいないぜ!……って、あれ?」

意気揚々と校門を潜ると、其処はがらーんとしていた。

『バカ!テニスコートだ!』

『早く来いYO!』

今は腕に装着された立海ケータイから、丸井先輩とジャッカル先輩が呼んだ。

俺は急いでテニスコートへ向かう。そして今度こそ…!

「テメーも赤く染めてやるぜ!克己復礼、ムーンレッド!――潰すよ?」

階段下のテニスコートに向けて決め台詞を言う。
高い所から登場なんて、まさにヒーローっぽくてかっこいいだろ?

「俺達…立海戦隊 絶対王者ー!!」

ラケットを握ってコートに飛び降り、ポーズを決める。
そこでまた真田副部長が怒鳴った。

『早く戦わんかーっ!!』

「ハイハイ、わかってますって。コイツ等ぶっ倒せばいいんでしょー」

ラケットを構え、敵を見据える。
見たトコ普通の人間っぽいけど、なんか変なオーラに包まれていてヤな感じ。

「レーザービーム!!」

2つのレーザーが走り抜け、直撃した敵が倒れる。
柳生先輩と、仁王先輩だ。

「バイオレット先輩にブルー先輩!」

「遅いですよ。レッド君」

「プリッ」

「す、すんません」

「どうやら、彼等の狙いは私達のようですね。テニスコートを直接襲って来ました」

「他の部員はアップルとイエローが誘導して避難させちょるき。こっちは俺達で潰せとのお達しじゃ」

「なるへそ。んじゃ遠慮無く」

俺は思いっきりナックルサーブをお見舞いしてやった。
当たった奴等が次々吹っ飛ぶ。

「へへっ!楽勝っ」

『待て。何かがおかしい』

「へ?どうしたんスか?マスターさん」

不意に届いた柳先輩の声に、俺達は耳を傾ける。
もちろん襲って来るボールは打ち返しながら。

『お前達、奴等に見覚えは無いか?』

「へ?」

『暗褐色のオーラが邪魔で顔や姿がよく見えないが、奴等の仕草やフォームには覚えがある』

『どういう事だ?』

真田副部長も、ケータイの向こうで訊ねる。

「まさか…我々と対戦した事のある選手?」

「そこそこ出来るテニスプレイヤーだとは思っていたがのう」

柳生先輩と仁王先輩は何か気付いたみたいだ。
でも俺にはさっぱり。

「教えてくださいよ!アイツ等何なんスか!?」

『六里ヶ丘…か』

部長が、呟くように言った。
むりがおか?それって確か……。

『ああ。奴等の正体が、我々が全国大会2回戦で対戦した、愛知六里ヶ丘のテニス部員である確率…98.2%』

『はぁ!?何だよそれ!?』

通信に割り込んで来たのは丸井先輩だった。

『まさかアイツ等、全国で負けた腹癒せに……?』

ジャッカル先輩も続ける。

『なんという事だ。たるんどる!!』

「じゃがのう参謀」

真田副部長の声にこっちまで怒られてるみたいな気分になって耳を塞いでいると、仁王先輩が言った。

「アイツ等、こんなに強かったか?」

「そうですね。私達は立海戦隊としての装備で戦いに臨んでいます。身体能力は普段の数十倍。そんな私達に、彼等が太刀打ち出来るとは思えませんが」

『やはり、あのオーラだろうな。彼等のデータを解析した限り、自我があるとは考えにくい』

「洗脳…ですか?」

柳生先輩や柳先輩がなんか難しい話を始めそうな気がした。
そういうのが苦手な俺は、とにかく早く結論を聞きたくて…。

「じゃあ、アイツ等どうすんスか?!幸村部長!」

『そうだね。手加減しつつ迎撃続行』

「イエッサー!!!」

司令室(部室)で、立海ケータイから映し出されるでかいモニター越しにこっちを見守ってる幸村部長の期待に応えるため、俺達は頑張って戦った。

『あ、レッドは5秒遅刻したからみんなより多めに仕事すること』

「ッ…へーい!」

途中から丸井先輩とジャッカル先輩も合流し、あらかた片付くと、三強が司令室から出て来た。
目を覚ました六里ヶ丘の部員は、もうあの変なオーラは纏ってはいなかった。

「やあ、牛田だったかな。久しぶりだね」

幸村部長が、あっちの部長(らしい)に声をかける。

「君達は何故此処へ来た。君達の目的は何だい?」

部長、朝練の時間邪魔されて怒ってる。こわい。

「…え……幸村…?」

牛田の声に、部長の空気が微妙に変わる。

「そうだよ。…その様子だと、少なくとも俺に用があるわけじゃないのかな?」

「いや…つーか此処……立海、なのか…?」

「俺達、なんでこんな所に…」

もう一人(柳さんのデータでは宮瀬とかいうらしい)が言う。
なにこれ。正直ワケわかんね。

「お前等が全国で負けた腹癒せに乗り込んで来たんじゃねーのかよぃ!」

「そ…そんな事するかよ!」

「おや、以前私が青学の海堂君と君達の取材班を欺いた事で、因縁でもつけに来られたのかと思ったのですが?」

「なっ…あんときゃちっとムカついたがよ…。負けは負けだ。別にアンタ等に何かしようなんて思ってねー!」

「どうだかのう?本当は俺等の事、いなくなれば良いのにって思っとったんじゃなか?」

「……ッ」

丸井先輩と柳生先輩、仁王先輩までが話した所で、幸村部長が腕を組んだ。

「君達、もう帰っていいよ」

「幸村部長!?」

「しかし幸村…!」

「真田。俺達の敵は、彼等じゃない」


その日は結局朝練は出来ず、放課後は練習の後、レギュラーだけでミーティングをした。
もちろん、今朝の事についてだ。

「結論から言おう。愛知六里ヶ丘の部員達が何かに取り憑かれていた確率、99.8%」

「取り憑かれるって…ユーレイとかそーゆーコトっスか!?」

思わず声を上げると、柳先輩が落ち着けと目配せしてきた。
そして、立海ケータイを机の上に置く。それが映写機みたいに、空間にでかいスクリーンを作った。

「これは今日の戦いの記録だ。やはり気になるのは、奴等を包むこの暗褐色のオーラだろう。赤也が言うような悪霊の類ではない。似たような概念ではあるが」

柳先輩の説明がいまいちわからなくて、首を傾ける。
すると、幸村部長が語り始めた。とても、穏やかな声で。

「人間ってね、負の感情が無い人はいないんだ。怒り、悲しみ、憎しみ、嫉み…どんなに強い人でも、必ず弱い部分が存在する。俺達は普段、理性でそれを抑える事が出来るけど、稀に抑えられなくなる人もいるだろう。そうやって人は、悪行に手を染める。今まで俺達絶対王者は、そういった人達と戦って来た。でも今回の彼等は違う。彼等は確かに、俺達に劣等感があったんだろうね。俺達に負けた事で、悔しいとか、何で勝てなかったんだとか、アイツ等さえいなければとか、考えた事もあっただろう。そういう気持ちが、何かのきっかけで自我を無くす程大きくなり、俺達に向けられた。彼等はきっと、自分達の心の闇に取り憑かれてしまったんだ」

「心の…闇?」

「人の心の、最も暗い部分。俺にもあるよ。俺も、入院中に取り憑かれそうになった。みんなが居たから、そうはならなかったけどね」

そう言った幸村部長の笑顔は、入院していた時と少し似ていて、心臓がギュッてなった。

「だが、仁王達と話した彼等を見る限り、負の感情はあったのだろうが、それだけでこんな風にはならないだろう。やはり、心の闇を増幅させる何かがあったに違いない」

「ならば蓮二。少しでも奴等から情報を得るべきだったのではないか?」

「仕方ないだろう。精市が帰してしまったのだから」

……たぶん、だけど。
幸村部長は、あれ以上アイツ等のことを見ていたくなかったんだと思う。
それは、アイツ等が嫌いとか、そういうんじゃなくて。

俺は、さっきの幸村部長の笑顔を思い出して、また心臓が震えた。



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