立海一家シリーズ

□終わらない立海一家
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【うざうざー現る!】


『ぶいぶいびーっ!え〜じのホイッとにゃ体操、はじまるよん♪』

画面の中のえ〜じくんと一緒に、園児達は膝を曲げたり伸ばしたりしながら、リズムに合わせて腕を振る。
先生達もお手本を見せるべく、前に出て身体を動かす。

『両手を横に〜ホイッとにゃ♪片足〜上げてホイッとにゃ♪手と手を合わせてホイッとにゃ♪』

え〜じくんの歌に合わせ、一生懸命体操する子ども達。
ポイントポイントで次の動作を指導するのは、しゅういちろうおにいさんだ。

え〜じのホイッとにゃ体操は、Princeテレビの子ども番組、「こどもぷりんす」の1コーナーで行われる体操である。
スポーツトレーナーの大石秀一郎が監修しており、体づくりや運動遊びにぴったりだと評判で、このみ幼稚園でも採用しているのだ(詳しい解説入りの、DVD付きCDが発売されている)。

『もう一度息を吸って、ゆっくり吐いていくよ〜。さあ、カウントダウンだ!』

『5・4・3・2・い〜ち ホイッとにゃ♪さいごは きくまるビーム!ホイッとにゃ♪』

「あっかやさーぶ!」
「かおーるしょっと!」
「ゆうたーらいじんぐ!」
「りょーまどらいぶ!」

曲の終盤、「きくまるビーム」の部分では、毎回え〜じくんのアクロバットが炸裂する。
だが園児達にその動きが真似出来る筈もなく、好きなポーズをしながら、自分の考えた必殺技を思いっきり叫ぶのがお決まりとなっていた。

「しゅーぱー うるとら ぐれーと でりしゃす きんたろう やまあらし!!」

中には必殺技が長過ぎて曲からはみ出してしまう子も居たりするが、それもまた御愛嬌。
皆がポーズを決める中、『完ペキパーペキパーフェクトってね!』というえ〜じくんの決め台詞で、体操は終了した。

「リリアデントくん、どやった?ホイッとにゃ体操、初めてやんな?」

謙也先生が声をかけたのは、るーきー組の新しいお友達、リリアデント・蔵兎座だった。

「TVで みたコトありマース」

リリアデントはカタコトな日本語で答える。

「でも…さいごガ、ワタシが しってるのト ちがいマース」

「あ〜、最後ん所は皆、好きなポーズして好きな技叫ぶからなぁ。先に言うといたら良かったわ。びっくりさせて堪忍な?」

膝をつき、謙也先生はリリアデントと目線を合わせる。

「リリアデントくんも……んー、何や堅いな。リリアデントくん、何か呼んで欲しい呼び方あるか?」

「……Nickname?」

「YES!」

「ギンナンよこちょでは、リリーよばれてマース!」

「ほなリリー!リリーもな、体操の最後には好きなポーズしてええねんで?楽しんだもん勝ちや!」

「たのシイ……Winner?!」

「せやで!…あ、リョーマ」

謙也先生が呼ぶと、リョーマはちょこちょこと駆け寄って来た。金太郎も後をついて来る。

「なに?」

「ケンヤどないしたーん?」

「朝の会でも言うたんやけど、リリアデントくんな、まだ日本語勉強中やねん。幼稚園では日本語で頑張る言うてるけど、わからん事もあるやろうから、困っとったら助けてあげてな?」

「うん、わかった」

「わいも たしゅけたるでぇ!」

リョーマは頷き、金太郎は両手を上げる。
英語がわかるリョーマだから頼んだのだが、「困っとったら助けてあげてな」は金太郎にも言える事だ。
二人の気持ちが嬉しくて、謙也先生は「おおきに。よろしゅうな」と笑った。

「あ、リリー。謙也先生も英語わかるからな!」

「ハイッ!」



赤也・薫・裕太がブランコで遊んでいると、リョーマと金太郎が此方へやって来るのが見えた。

「だれだ〜?」

二人と手を繋ぐブロンドの男の子は、見た事がない。

「ねぇ、ちゅぎ かしてくれる?」

「いいぞ。じゅんばん だからな」

リョーマが言うと薫がブランコから降りた。

「おれも、かしてやるな」

「にーちゃん、おおきに〜」

裕太も金太郎にブランコを譲る。

赤也は不思議そうに男の子を見ていた。

「がいこくじん?」

「ワタシ、リリアデント・クラウザー。よろしくデース!」

「うわっ、にほんご しゃべった!」

「にほんご、ベンキョーちゅうデース。ばんがりマース」

「リリー、がんばる」

「Oh〜 がんばりマース!」

早速リョーマにフォローされ、言い直すリリアデント。

「こいつ、おれより おっきい」

「ふちゅ〜〜…っ」

「おれよりもだ…」

日本人よりも成長が早いのか、リリアデントはえーす組の子ども達よりも背が高かった。

「ぶらんこ のろーや!はよ のろーや!」

既にブランコに座っていた金太郎が急かす。

「Let's play.」

「OK.Ryoma」

「こーしーまーえ〜!わい えーご わからへんでぇ〜?」

「もう、あそぼって いっただけ」

「ほな あそぼー!!」

赤也は怪訝な顔をしながらも、ブランコを明け渡し、今度は滑り台に移動した。

「なんか、なまいき だよなー」

ぞうさんの滑り台を、赤也が滑る。

「なにがだ?」

今度は薫が滑っていく。

「おれたちより おっきいから?」

次は裕太が滑る番だ。

順番に滑り台を楽しみながら、三人は話していた。

「それもだけど、にほんごで いいじゃん!しゃべれるんだからっ」

「えちぜんが えいご しゃべれるからだろ」

赤也は外国人が苦手だ。言葉が通じないからである。
ハーフで日本語を話すジャッカルと、毎年プレゼントをくれるサンタさんだけは別だけれど。

「ふちゅ〜…おれは ABCとかしか わからないな」

「おれも あにきに おそわってるけど、うたとか、ものの なまえとかしか わかんないぜ」

「ええっ?!」

薫と裕太の言葉を聞いて、赤也は至極驚いた。
日本人なのに、まだ子どもなのに、英語を知っているのかと。

「あかやだって、えいごで てがみ かいたんだろ?」

「あれは ぷれぜんとのため!サンタさん、にほんご わかんないから しょーがないだろ!?」

「にほんじんの サンタさんも いるって、いぬいさん いってたぞ?」

「サンタさんって、りんごとサボテンのくにから くるんじゃないのか?」

「は?」

「ん?」

「えっ!?」

その後、「裕太〜、迎えに来たよー」と、子役の仕事のため早めに迎えに来た周助がキヨ先生に挨拶をし、裕太は「あにきの ばかーっ!!」と叫びながら周助に抱えられて帰って行った。



「リリーくん、幼稚園はどうだったかな?」

帰りの時間になり、リリアデントを迎えに来たのは、鬼楓組の入江だった。
リリアデントが幼稚園に慣れるまでは顧問弁護士の彼が送り迎えをし、慣れて来たらぎんなん横丁の職員が担当する事になっている。

「かなたサン!ようちえん、たのシイ、Winnerデース」

「お、楽しんだもん勝ち、覚えてくれたん?」

楽しそうに紡いだリリアデントに、謙也先生が相好をくずす。

「みてクダサイ。おえかきノ じかんニ かきマシタ」

そう言って見せた画用紙には、たくさんの花が咲いていた。
クレヨンで描かれた色とりどりの花達に、入江は感嘆の声を上げる。

「わあ、きれいだね。リリーくん、とっても上手だよ」

「リリーはお花さんが好きなんよな〜?」

「はなが すきとか、おんなみたい だよな」

和やかな雰囲気の中、そんな言葉を向けて来たのは、れぎゅらー組の鉄夫だった。

「かみも ながいし、ほんとは おんななんじゃねーの?リリーちゃ〜ん」

便乗し、からかうように言ったのは、同じれぎゅらー組の智則。
自分達より身長の高いリリアデントに自尊心を傷つけられたのは、えーす組の子達だけではなかったのだ。

「なにが わるいんだよ」

「…?」

ぎゃははと笑う二人をリリアデントが睨みつけた時、其処へ割って入って来たのはなんと、赤也だった。

「おとこが はな すきで なにが わるいんだよ!うちの せいくんだって、びゃっこの しらいしさんだって、おはな だいすきって いってたぞ!」

れぎゅらー組とえーす組の一部の園児は、犬猿の仲だった。だいたいはれぎゅらー組から挑発して来て、赤也と薫で返り討ちにしているのだが。

因みにれぎゅらー組担当のミチル先生は、こういう時に限って腹痛を起こして不在だったりする。

「かみだって さらさらで きれいだろ!おれ、うらやましいぞ!えいごは、ちょっと むかつくけど…っ」

「赤也くーん、お口が悪いよ〜?」

赤目モードになりそうな赤也を危惧し、キヨ先生が窘める。
しかし、赤也は黙ってはいられなかった。

「だってキヨせんせぇ!おはな そだてるの たいへんだもん!おれ しってるもんっ!だから きれいに さくんだ!おはなは すごいんだぞ ばーかっ!!」

そして、今度はリリアデントに向き直り、明るく告げた。

「あんな やつらの ゆーこと、きにすんなよ うざうざー!こんど せいくんの おにわ みせてやるよっ!!」

赤也のその言葉に、一度は驚き、やがて微笑んだリリアデントだったが……

「でも…ワタシ、くらうざーデース!」

どうしても見過ごせなかったらしく、鋭く容赦なく訂正した。
途端、赤也の顔から笑みが消える。

「おまえっ…ほんとに うざうざーだな!」

「NO!Krauser!」

「ああ?!わかんねーよ!」

「Kill you シマース!」

「おまえ つぶしゅよ!?」

「こらこらこらっ!何で自分らが喧嘩するん!?」

「もお〜赤也くんっ、お口イップスだよー」


新たなライバル誕生の瞬間だった。





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