立海一家シリーズ

□終わらない立海一家
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【風に舞う花】


「お疲れ様です。精市兄さま」

「うん。太一もお疲れ様」

会場の近くのカフェにて、幸村兄弟は一休みしていた。

今日は、山吹屋 リニューアルオープンCMの完成記念パーティーだった。
出演者の二人は、CM内の衣装を着て出席。パーティーといっても、記者の取材の場も設けられ、テレビコマーシャルとは別にウェブで配信されるメイキング映像に追加する為に、製作会社のカメラも入っていたので、仕事としての独特の緊張感があった。

「あ、先程のお花は、後でBan Gardensの人がお家に届けてくれるそうですよ」

パーティーでは大して食べられなかった為か、美味しそうにフルーツパフェを頬張りながら、太一が言う。

「誕生日だからって俺ばかり貰っちゃって、なんか申し訳ないな」

幸村はハーブティーのカップを傾けながら微笑んだ。

取材の途中、何故か太一がその場を離れたかと思うと、大きなフラワーアレンジメントを抱えて戻って来た。
山吹屋と太一からの、幸村へのバースデーサプライズである。

「今回のCMの依頼は、僕個人で受けようと思ってたんです。でも兄さまも出演してくれて、山吹屋さんも喜んでたです!」

「だってオーナーの伴田さんは、太一がお世話になった人だろう?断らないよ。それに、生花コーナーのリニューアルは、俺としても嬉しいし」

「必要な品があれば、いつでも配達してくれるって云ってましたですっ」

「わぁ、有り難いよ。にとべ君?きた君?」

「たぶん配達は錦織さんだと思うですよ」

元先輩達の話題に、相好を崩す太一。

山吹屋の店長副店長を始め、Ban Gardensの店員達の多くは、太一の知己なのだ。(因みに赤也の担任キヨ先生も、山吹屋でのアルバイト経験があるらしい)

「あ、兄さま。僕はこの後、城成湘南のプロデューサーさん達と、ウェブ関連の打ち合わせがあるです」

さぁ帰ろうかと席を立った所で、太一が言った。

“城成湘南”とは、今回のCMを製作した会社の事だ。

「『僕は』って……俺は行かなくていいのかい?」

「精市兄さまにも映像の最終確認はして貰うですが、今日はもう僕だけで大丈夫なので」

「プロデューサーって、華村さんだっけ?」

「はい。あとディレクターの梶本さんと、カメラマンの神城さん」

「あのプロデューサー、けっこう押しが強い感じの人だったけど、一人で平気?」

「はい!亜久津先輩にお迎えに来て貰うです!」

太一は「お迎えに」と言ってはいるが、亜久津は“それなり”の時間に来るだろう。
幸村は安心して店を出る事にした。

「表にハイヤーを手配しておきましたです。兄さま、お疲れ様でした」

ぺこりと頭を下げる太一に目を細め、出口へと向かう。

「――あ、もしもし?太一です。精市兄さまが今お店を出ましたので、お願いしますですっ」

通話を終えて、破顔一笑。そんな太一の元に、穏やかな声がかかった。

「やぁ、太一くん」

「あ、鳳さん!金田さんも、先程はありがとうございましたですっ」

CMの音楽を担当した、鳳長太郎。先刻のパーティーにも出席していたピアニストだ。
マネージャーの金田も一緒で、二人共礼儀正しく挨拶をする。

「なんだかとっても嬉しそうだね」

「精市さんは、お先に帰られたんですか?」

「はいっ!兄さまはこれから、大事な御用があるです!」




幸村が外に出ると、目の前に一台の車が滑り込んで来た。
その見慣れた車体と運転手に、幸村は思わず朗笑する。

「ふふっ、ハイヤーって真田のことだったの?」

「……俺が迎えでは不服か?」

苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、恭しく助手席のドアを開ける真田を見て、幸村はますます笑みを濃くした。

「いや、嬉しいよ」

素直に乗り込み、シートに身体を預ける。
運転席に戻った真田に、視線を送った。

「で?」

「『で?』とは何だ?」

「わざわざお前が迎えに来たんだ。このまま家に帰るわけじゃないんだろう?」

真田は何か言いかけたが、口を噤んで発車させた。
僅かに動揺が見られる。

「まぁいいか。何処に連れて行かれちゃうんだろう。ふふっ、楽しみだな」

暫く走ると、なんだか見覚えのある景色が目に入る。
否、最近撮影で来たばかりだ。

「少し風があるな。上着を着ておけ」

パーティーの後、衣装から私服に着替えた幸村だったが、どうせ車移動だし、今日は早く家に帰ろうと思っていたので、薄着だった。
真田に言われ後部座席を見れば、幸村のPコートがきちんと用意されている。
ああ、きっと蓮二だな。そう思いながらそれを着用し、停車した車から降りる。

また暫く歩くと、撮影を行った場所に辿り着いた。

「あっ!せいくーんっ!!さなださぁ〜ん!!」

まず赤也の声がして、皆口々に幸村の名を呼ぶ。

家で待っている筈の面々が、其処には全員揃っていて、咲き誇る河津桜と、敷かれた緋毛氈の組み合わせが目を惹いた。

「ゆきむらくん!はやく、お花見しようぜぃ!」

待ちきれないと言わんばかりにブン太が急かす。

「何でお前達が此処の場所知ってるの?」

「お前が言ったのだろう、精市。今度は仕事ではなくプライベートで来たいと。皆で一緒に、とな」

柳の言う通り、幸村が撮影の合間そう言ったのは本当だ。
実際にCMで使われた場所はもう少し奥なのだが、この辺りの早咲きの桜も、強く印象に残っていた。

伝えたのは太一しか居ないだろう。

「なんだよ。俺が連れて来てあげようと思ってたのに」

そう悪態をついたものの、頬が緩むのは止められない。
朱を刷いたようなその横顔を見た真田が、とん、と幸村の背中を押した。

「うかうかしていたら散ってしまうからな。さぁ、行ってやれ」

「ああ」

幸村は歩みを早め、緋毛氈の上に膝をついた。
そして、赤也とブン太と雅治を一遍に抱きしめる。

「お待たせ!さぁ、お花見しようか」

「いえっさー!」

「ピヨッ」

「ゆきむらくん、ケーキケーキ!」

「待てってブン太!幸村は仕事して来て疲れてんだから」

「料理もあるぞ。精市の好物ばかりだ」

「本当に美しい場所ですね。ありがとうございます、幸村君」

「にゃんすぅ」

「待たんかお前達!まずは云わねばならん事があるだろう!」

「ああーっ!!そうだったっす!せいくんっ……」


「誕生日おめでとう!!!!!!!」

「ありがとう みんな!」






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