立海一家シリーズ

□終わらない立海一家
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【もふもふしたいの】


うんしょ、うんしょと踏み台を運び、やっとの思いで冷蔵庫を開けた赤也は、目を丸くし、首を傾げた。

「やなぎさぁ〜ん!ぎゅうにゅう ないよー!!?」

そして、大きな声で訴える。
その声を聞いた柳が赤也の後ろから冷蔵庫を覗くと、確かに、いつもある場所に存在していない。

「残量は把握していたから、ちょうど今日買いに行く予定だったんだが……赤也の飲む分まではあると思っていたんだがな」

柳も首を捻り、とりあえず赤也を抱いて踏み台から下ろし、冷蔵庫を閉めた。

早く大きく、強くなりたい赤也は、毎日の牛乳を欠かさない。
それは良い習慣なので、切らさないよう残量はいつも気にしていたのだが。

「あ、悪い。昨日俺が使っちまったんだ」

二人の会話を聞き、ジャッカルが謝った。

「昨夜ブン太がどうしてもパンケーキ食いたいって言うから…」

「なっ…ジャッカル!ないしょって言っただろぃ!?」

「なにそれ?ぶんたくん ずりぃ〜!」

「そうか。ブン太の食生活のデータを、また更新しなければならないな」

すまねぇと苦笑するジャッカルをぽかぽか叩いているブン太の向こう、リビングのソファに座っている柳生の膝に座り、自分の膝にはしい太を乗っけてテレビを見ている雅治を視界に入れ、赤也は再び「ずるい」と唸った。

「また まさくんが しいた だっこしてる!」

「プリッ。いいじゃろ別に。しい太の方から寄ってくるんじゃ」

「おれも だっこしたい!」

赤也が両手をのばすと、しい太はびっくりして雅治の背中と柳生の間に潜り込んだ。

「あ〜っ なんでぇ?!」

「あかやは扱い方がらんぼーなんじゃよ。のう、しい太?」

しい太は少しだけ顔を覗かせ、困ったような表情で、ふにゃあんすと鳴いた。

「あかや、この前しっぽつかんでただろぃ?だっこする時もムリヤリだし。びびられてんだよ、おまえ」

ぷくっとガムを膨らませながらブン太もやって来た。

「猫は気まぐれな生き物だからな。自身の好きな時に甘え、好きな時に離れて行く。ブン太もやや構い過ぎる傾向があるし、自由にさせてくれる雅治の傍が一番居心地が良いのだろう」

「似た者同士なのかもしれませんね」

柳の解説を受け、柳生が雅治を眺めながら言う。
しい太はもぞもぞと移動し、また雅治の膝の上に収まった。

「おれだって さわりたいのにー」

赤也は唇を尖らせご不満な様子。
ならば赤也、と柳が慈しむように赤也の頭を撫でた。

「動物は玩具ではなく生き物だ。人間の都合を押し付けてはいけないな。触れる時も、相手を怖がらせないようにしなければ」

あんな風にな、と。柳に導かれ向けた視線の先にはテレビがある。
ちょうど流れて来たCMでは、幻想的なピアノの旋律をBGMに、自然に囲まれた二人の青年を映していた。

「せいくんと たいちくんだ!」

幸村は胸元に楚々としたフリルのある水色のシャツに白のベスト、黒の細身のパンツ。太一は空色のフリルシャツに白ベスト、グレーのハーフパンツに白黒ボーダーのハイソックスという出で立ちだ。

葉に触れ、花の香りを楽しみ、美しい植物達を愛でる幸村兄弟。すると、茂みから二羽の兎が出て来た。
二人が膝を折り、やわらかな視線を向ければ、兎達はゆっくりと近づいて来る。
そっと手をのばし、寄って来た兎を撫でる。
幸村は白い兎、太一は茶色い兎を優しく抱き、目を細めた。


赤也は口を開けたまま見入っていた。


やがて兎が二人の手から離れ、ぴょんぴょんと駆けて行く。
誘われるように後を追って行くと、開けた場所に店が建っていた。
一際大きく跳ね上がった兎達が、その店の看板に吸い込まれ、可愛らしいマスコットキャラクターのイラストに変わった。

“YAMABUKI STORE”という文字がクローズアップされる。

赤也も一人でおつかいに行った事がある、あの店だった。


『春、山吹屋が変わる。――山吹屋 “Ban Gardens” リニューアルオープン!』


ナレーションと共に、改装された店舗の全容が次々と映し出されていく。
今までは食料品売り場の片隅にあった生花コーナーが、大幅に規模を拡大し、同じ敷地内に園芸店として併設されたという告知だ。

最後に、店の前でそれぞれ大きな花束を抱えた幸村と太一が、此方に微笑みかけるカットで、CMは終わった。

「ほう、以前撮影したと言っていたのはこれか!」

気が付くと、腕組みをした真田が立っていて、皆と同じようにテレビ画面を凝視していた。そして、「たまらんコマーシャルだな!」と力強く評価する。

「美しい描写でしたね。植物も動物も、幸村君達はお好きですし」

「兎、全然怖がってなかったな」

ジャッカルのその呟きに、赤也ははっとした。
柳の方を見ると、彼は微笑みながら頷く。

赤也は再び雅治の膝の上のしい太を見た。
膝を貸してやってはいるものの、雅治は必要以上に触ろうとはせず、しい太の好きにさせている。

「ゼッタイオウジャー始まるぜぃ。あかやも座れよ」

その隣に腰掛けたブン太が呼ぶ。

この時間に始まる特撮番組“立海戦隊 絶対王者”を、子ども達(+柳生)はいつも楽しみにしているのだ。

赤也はブン太の逆側に座り、じぃっとしい太を見据えた。そして、先程のCMでの幸村の手付きを真似、そうっと指先を近付ける。

「……にゃんすぅ」

すると、しい太の方からすりっと顔を寄せて来た。
赤也は目を見開くと、出来るだけ優しくその頭を撫でてみた。

たったそれだけで、しい太は元通り丸まってしまったが、赤也の表情はぱあっと明るくなり、瞳はきらきらだ。

「や、やなぎさん!やなぎさんっ!!」

「ああ、偉いぞ赤也。またひとつ勉強になったな」

「へへっ」

「後で牛乳を買いに山吹屋に行こう。絶対王者を観てから、一緒に行くか?」

「いえっさ!」

オープニングテーマが始まり、高揚した赤也とブン太が歌い出す。
因みに柳生も一緒になって歌うので、この時ばかりは雅治もメロディーに声を乗せる。

そんな中、一連の遣り取りを見ていた真田は、赤也の成長を微笑ましく思う反面、

『こら、しい太!稽古中は危険だから入って来てはならんと言っているだろう!!』

……と、よくしい太の襟首を掴み上げ、粗暴に道場から放り出していた自分を思い出し、少しだけ気まずい思いをしたのだった。




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