立海一家シリーズ

□立海一家のクリスマス
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【present panic】


24日夜、クリスマス・イヴのパーティーが始まる。

立海家は普段、食事は和室でと決まっているのだが、今日はイヴだからとリビングに集まった。
どことなく大正浪漫を思わせるリビングは、和室程の広さはないが、8人が揃って傍らにクリスマスツリーを飾っても、充分なゆとりがある。

テーブルにはたくさんのご馳走。センターを飾るのはもちろん、ブン太が作ったRIKKAIスペシャルだ。

「メリークリスマス!!!!!」

シャンパンとシャンメリーで乾杯し、豪華な食事に舌鼓を打つ。
リビング故に、テレビも見放題。「今日は太一が出るから」という理由で、生放送の特別番組にチャンネルを合わせた。

「あ、これキミ様のやつだろぃ?」

人気タレント君島育斗が司会を務めるその番組では、クリスマスムードの街で、お笑いコンビLOVEるsが突撃インタビューをしていた。
太一はゲストとしてスタジオにいるようで、先程からワイプにちょこちょこ映っている。

『きゃあ〜っ!かわゆいボーイとイケメンな保護者様!ちょっとお話聞かせてぇ〜んv』

『コラァー小春ぅ〜!さっきから男ばっかりやないか!浮気かぁー!!』

小春にロックオンされた親子は、表情をぴくりとも変えず、静かに振り向いた。

「あっ!!」

赤也が声を上げるのも無理はない。皆テレビ画面に釘付けになった。

『今夜はこれからぁ、Xmasディナーですか〜?』

『ちがう』

猫のような大きなつり目が、小春を睨んだ。

『せや、ちゃうで小春!今夜はイヴや。Xmas Eveディナーや!!』

『ちがうってゆってうじゃん』

ユウジがすかさずツッコミ(に見せかけた被せボケ)を入れたが、猫目は更に不機嫌の色を濃くする。

何故か、しい太がテレビの前に近づいていき、にゃあ〜んすと甘えたような声を出した。

『今日はこの子の誕生日なんでな、Birthdayディナーだ』

低く落ち着いた声がして、カメラが縦にパンする。
画面いっぱいに映った無表情が、『この子』=リョーマに向けられ、微かに綻んだ。

『あらイヤン!お誕生日やったのね!?ほな、おめでとう〜v』

『ふーん、おめでとさん』

『もう、ユウくん!もっと心を込めて!』

LOVEるsがぎゃいぎゃい騒いでいるうちに、「有り難う。予約の時間があるので失礼する」「Bye-bye」と、二人は手を繋いで歩き去っていく。
どうやらボウヤのご機嫌は治ったようだ。

「えちぜん たんじょーび おめでとお!」

此処で言っても伝わらないのだが、赤也がテレビに向かって叫び、手を叩く。立海家一同も、つられて思わず拍手してしまった。

『クリスマスとかいろんな行事と被ってしまうと、誕生日って感じじゃなくなっちゃって、寂しいんでしょうね。お祝いして貰えてよかったです。お誕生日、おめでとう』

スタジオで、コメントを求められた太一が喋っていた。

「太一、最近忙しそうだよな」

ブン太に七面鳥のおかわりを取り分けてやりながら、ジャッカルが言った。
クリスマスケーキを手作りするのに太一に頼らなかったのも、ブン太なりの気遣いだったのかもしれない。

「個展の準備もあるし、年末は他の仕事は控えてのんびりしようかって言ったんだけどね…。『宣伝にもなるし、僕だけお仕事入れてもいいです?』ってスケジュール組んじゃって」

そして二言目には「メディア出演は僕に任せて、精市兄さまは立海さんでゆっくり過ごして下さい」と続くのだ。
太一が単独で仕事を受けるのは珍しい事ではないが、幸村は苦笑しながらシャンパングラスを傾けた。

刀と変わらぬ包丁捌きで、ケーキをきっちり斬り分けた真田が目線を上げる。

「展覧会は2日からだったな。オープニングセレモニーは皆で観に行くぞ!」

「いく〜!」

「とーぜんだろぃ!」

「ピリーン」

「ああ、待っているよ。皆で書き初めをした後で、だろう?」

「無論だ!」


ちびっ子達はパーティーの後、「早く寝ないとサンタさん来ないから」と、あっさり就寝した。


そして、クリスマスの朝。

目を覚ました子ども達は、パジャマのままリビングのクリスマスツリーの元へ駆けて来た。
立海家では、プレゼントは枕元ではなく、本場に倣ってツリーの下なのだ。

「なぁ、おれのプレゼントは?!」

「ちゃんと持って来てくれたみたいだぜ。ほら」

ジャッカルがブン太宛のプレゼントを渡す。

「おれのっ…おれのは!?」

「そんなに慌てるな。赤也宛はこれだ」

柳が赤也宛のプレゼントをテーブルに乗せた。赤也が抱えるには大きいので、落として壊さないようにという配慮だ。

「おれんのは?」

雅治が柳生を見上げる。

「雅治君は、ネジとドライバーでしたね」

「プピッ?!」

「ちゃんと届いていますよ。はい、どうぞ」

柳生は微笑みを湛えてプレゼントを寄越すが、雅治は表情を曇らせ、ゆるゆると首を横に振った。

「………ちがう」

「え?」

「サンタならわかるはずじゃ!おれの手紙っ…ちゃんと…ッ」

赤也とブン太は、既に包装を開け、希望通りのプレゼントに喜んでいる。

「うわっ!これキャンディ入れても作れるヤツだぜぃ!はやくわたあめ食いてぇ〜サンタさんありがとっ」

「おれも はやくゲームやりたい!てがみ がんばってかいて よかった!」

「赤也、全部英語で書いたんだって?よく頑張ったね」

赤也のくせ毛を梳く幸村の言葉に、雅治は耳を疑った。

赤也はまだ幼稚園児で、ひらがなも満足に書けないのに、英語なんて書けるわけがない。

「あのね!まさくんがね、えいごじゃないとサンタさん よめないって、おしえてくれたんだ!」

「はぁ?なんだよそれ?あかや、またまさに騙…むぐっ!?」

咄嗟にジャッカルがブン太の口を塞ぐ。
ブン太は反抗しようとしたが、「とりあえず1回分な。食べ過ぎんなよ」と飴玉を渡されたので、嬉々としてわたあめを作り始めた。

「だからね、ひろくんに えいご おしえてもらったの!」

「やぎゅうが…?」

「うん!まさくんの おかげで ぷれぜんと もらえたよ!へへっ、ありがとお」

赤也の満面の笑みを受け、雅治は瞠目する。

そして、再度おずおずと柳生を見上げ、眉尻を下げた。

「プレゼント、開けてみてはいかがですか?」

柳生もこれには少しかわいそうになり、雅治にリボンを解くよう促した。

「……ん」

沈んだ声で返事をし、包装を解く雅治。

包みの中から現れたプレゼントを見て、その表情は一変した。

「プピナッチョ…!」

雅治宛のプレゼントは、ネジとドライバーなどではなかった。

サンタさんはちゃんとわかってくれていたのだ。彼の欲しかった物を。

「……あかや」

「なに、まさくん?」

「ゲームの相手がいなかったら言いんしゃい。おれがしてやるき」

「ほんと?わぁいっ!!」

純粋に喜ぶ赤也を見た後、雅治はぎゅうっとプレゼント――ソフトダーツセットを抱え、嬉しそうに微笑った。

「ゲームなら、おれも相手してやるぜぃ!」

「ぶんたくんも?じゃあ、はやく やろっ」

「待たんか!その前に朝餉だ!お前達、さっさと顔を洗って着替えて来んかぁーー!!」

バタバタと、子ども達が身支度の為に走っていく中、しい太だけが暢気に、ソフトクリーム(しい太用)を味わっていた。




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