立海一家シリーズ

□立海一家のハロウィンパーティー
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「それでね、それでね、すっげーこわかったのっ!でも みんなで やっつけたんだ!」

「そう。それは凄いなぁ。みんな頑張ったんだねっ」

立海家。赤也は幸村に悪魔の衣装を着せて貰いながら、幼稚園での出来事を話していた。

悪魔といっても、背中に小さな羽の付いた、子ども用の可愛らしい衣装だ。

「みんな、はやく来ねぇかな〜」

「おまんが待っとるんは菓子じゃろ」

もふもふした獣耳カチューシャとしっぽを付け、獣の手をはめた狼男のブン太と、とんがり帽子を被り、マントを羽織ってステッキを持った魔法使いの雅治は、既に準備万端。

「せいくんは きないの?」

「俺は向こうで着替えるよ。赤也達を送り出してからね」

触角カチューシャをはずれないように頭に固定してやると、小悪魔赤也(読み:こでびるあかや)の完成だ。

「皆さんよくお似合いです!用意した甲斐がありました」

騎士の仮装をした柳生が、満足そうに手を叩いた。

「俺はほとんどつなぎ目描いただけだけどな」

ジャッカルはフランケンシュタインの仮装をしている。

「皆、子ども達が来たぞ」

死神のローブを纏い、鎌を持った柳が呼んだ。

道場には、様々な仮装をした子ども達が並んでいる。

「きーたーでぇ〜!!」

「ねぇ、うるさい」

金太郎は豹の子、リョーマは黒猫。
るーきー組の二人は、もこもこした動物の仮装だ。

「かおなしは…いないよな…」

少し不安そうな薫は、海賊の仮装。
やはりバンダナがよく似合っている。

「見てみそっ!このマント羽なんだぜ!」

岳人は伯爵のような衣装からドラキュラかと思われたが、背中に翼があると嬉しそうに主張しているので、コウモリなのだろう。

「まるいくーん!」

そんな中、一人絢爛豪華な衣装を身に纏って現れたのは、慈郎である。

「ジロくん…そのカッコ…!」

「これ?あとべが着せてくれたんだ〜。おれ、おうじさまなんだってっ」


『ハァッハッハッハッ!!俺様はキングだぜ?ならウチのジローはプリンスじゃねーの!!』


そんな跡部が、皆の脳内で再生された瞬間だった。

「あれ?そういえば真田は?」

「待たせてすまん」

そう言って出て来た真田は、柿色の忍装束を着ていた。

「真田…。お前、ハロウィンで忍者って…」

「何っ?!駄目なのか!!?」

「いや、駄目じゃないけど…ちょっと浮いてるよ?」

確かに、西洋風の仮装が多い中、その忍装束だけ雰囲気が違っている。

「…NINJA!!」

真田が落ち込みかけた時、とても高揚した声が聞こえた。

「しゅごい!NINJAだ!はじめてみたっ」

きらきらした瞳で真田を見上げていたのは、リョーマだった。

リョーマは手塚の仕事の都合でこれまでずっと海外で生活しており、最近日本に来たばかり。
日本には本当に忍者がいたのかと、感動しているようだった。

「にんじゃって ちゅよいんやろ!?かっこええな〜!!」

金太郎も、忍者は時代劇に出て来るヒーローだと思っているので、純粋に真田の仮装を称えた。

「む…そ、そうか…!」

小さな豹の子と黒猫に手を引かれ、忍者はご満悦ぎみ。

「そうだ!まだお菓子もらってねーじゃんっ」

ブン太が雅治と赤也を連れ、他の子ども達と並ぶ。

「いくぜぃ。せーのっ」


とりっく おあ とりーと!!


全員で唱えると、一人に一つ、柳がジャックランタンを模したバスケットを渡す。其処へ、真田が菓子の包みを入れていった。

「カボチャのマカロンだ。ったく、卵白泡立てんの苦労したぜ!」

太一から教わり、ブン太の指示の下ジャッカルが作った渾身の作だ。
ブン太は自慢げに、皆はありがとうと受け取った。

「じゃあ真田、頼む」

「ああ、任せておけ!」

忍者は子ども達を引き連れ、まずは薫の家に向かった。

チャイムを押すと、低い声で「はい」と応答があり、玄関の扉が開いた。

「とりっく おあ…うぎゃあああぁあっ!!?」

中から、頭まで包帯が巻かれた男が出て来て、赤也と金太郎、岳人が悲鳴を上げる。

「い、乾か?」

真田が確かめると、包帯男が頷く。

「保護者も簡単で良いので仮装をと言われたのでね。ミイラになってみたよ」

「いや…それは良いが、巻き過ぎではないか?呼吸は出来ているのか?それに、視界は…?」

「ああ、問題ない」

「おい かいどー、へいきか?」

雅治が訊ねるが、薫は真田の足にしがみついて震えたままだ。

「薫、俺だよ。怖くないだろう?」

乾が眼鏡をかけると、薫はそれを一瞥し、ミイラが乾だと理解したようだ。

「…こわいっす」

しかしまだ涙目である。

「大丈夫だ。菓子に乾汁は入っていないからね」

薫の恐怖は今別の所にあるのだが……それはさておき、乾は皆のバスケットにハロウィン仕様にラッピングされた菓子を入れていった。

眼鏡のミイラが仲間になり、次はリョーマの家へ。

「とりっく おあ とりーと!!」

骸骨の仮装なのだろう、黒地に骨のイラストがプリントされた衣装を着た手塚が、バスケットに菓子を入れていく。

しかし、リョーマの前で、その手は止まった。

「リョーマはもう少し発音良く言えるだろう」

「……Trick or treat.」

少しむっとしながらも、リョーマは応える。
手塚は無表情のままその黒猫を一撫ですると、バスケットにえびせんべいを入れてやった。

骸骨が仲間になると、次は金太郎の家だ。

「とりっく おあ とりーと!!」

「可愛えおばけと動物達やな!んん〜絶頂っ!!」

「しらいしぃ…かそうって、それなん?」

金太郎が訊くと、白石はひらりとターンした。

「シーツに穴を開けて被るだけ…完璧な無駄の無さやろ!」

ポーズを決めているようだが、シーツが盛り上がるだけでどんなポーズかよくわからない。

「しらいしさんは ゆーめーじんだから、かおが みえないようにしたんだよ!ねっ?しらいしさん!」

赤也が言うと、白石はシーツの隙間から僅かに見える目を細め、おおきになぁと笑った。

「ほな、お菓子分けるで〜」

シーツおばけにも菓子を貰い、次の目的地は岳人の家。

一度マンションの警備員に止められそうになったが、住人である岳人が居たので、彼の説明でハロウィンの催しだという事を理解して貰えたようだ。

「とりっく おあ とりーと!!」

「なんや…大人も一緒に来たん?」

仮装した子ども達の後方、ミイラやら骸骨やらがついて来ているのを見て、忍足は突っ込まずにはいられなかった。

「薫がハロウィンに怯えていてね。いずれにせよ俺達も幸村邸に行くんだし、同行したよ」

「いや、それ自分に怯えてるんちゃうん?」

乾と手を繋ぎながらも、薫は頑なに彼の顔を見ようとしなかった。

「ちゅーかそのシーツ誰やねん。あ…白石か」

「ご明察やで!侑士クンは吸血鬼なんやな」

「せやで。岳人とお揃いやねん」

「おれはコウモリだろ!」

「ヴァンパイアはコウモリを使役するもんやで」

「いいからっ はやくお菓子!」

「せやな。ちびっこ達にはお菓子のプレゼントや」

岳人にせがまれ、忍足は子ども達のバスケットに菓子を入れた。

「なぁ、ジロくんが寝ちまいそうなんだけど…。次はジロくん家だろぃ?がんばろうぜぃ」

ブン太と手を繋ぐ慈郎の瞼が落ちかけている。
本人はだいじょぶ〜と言っているが、今にも寝そうだ。

目指すは、あとべッキンガム宮殿。

「と…とりっく おあ とりーと」

「よく来たなぁお前達!樺地、菓子を持って来い!」

「ウス」

案内された部屋には、玉座に腰掛けた王様が待ち構えていた。

慈郎の仮装を見てわかっていた事だが、樺地も大臣のような煌びやかな衣装を着せられている。

「悪いが、俺様はこれから傘下企業のイベントに行かなきゃならねぇ。ジローをよろしく頼むぜ。ジロー、楽しんで来いよ?」

「うんっ」

「それは良いが、跡部。まさかその格好で行くのか?」

慈郎よりも更に派手な、一国の王さながらの跡部を見て、真田は眉を寄せる。

「当然だろ!キングはキングに相応しい衣装を纏わねぇとな!ハァーッハッハッハッ!!……はっ!?」

突然、跡部が高笑いをやめた。
その碧眼は、真っ直ぐに手塚へと向けられている。

「手塚…お前…」

「どうした、跡部よ?」

跡部の手が、顔の前まで持ち上げられる。

「スケスケじゃねーの!!」


―――こうして、子ども達は樺地から高級菓子の詰め合わせを配られ、お礼を言って幸村邸へと向かった。




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