立海一家シリーズ

□立海一家とゴンタクレ
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柳と赤也が金太郎を連れて立海家に帰ると、ちょうど昼の稽古が終わった所だった。事情を聞いた皆は、快く金太郎を迎えてくれた。

「わいっ、とおやまきんたろー いいましゅ!よろしゅうよろしゅうっ!!」

「元気に御挨拶が出来て、お利口さんですね」

「素直で良い子じゃねーかYO!」

「弦一郎、赤也と金太郎を風呂に入れてやってくれないか。幼稚園で盛大に泥に塗れて来たのでな」

「うむ、よかろう!赤也、金太郎!風呂に入るぞ!!」

「はーいっ!!」

元気に手を上げ、バタバタと風呂場に向かう子ども達。
柳は赤也の着替えと、赤也には少し小さくなってしまった服を、金太郎用に出してやった。

「なぁ柳、あいつ等のおやつ、何にしたらいいんだ?」

脱衣所から出て来た所を、ジャッカルが訊ねる。

「金太郎はたこ焼きが好物らしいな」

「そっか。流石にたこ焼きは作れねーなぁ。買って来てやるか」

「ああ、頼む。俺は少し道場の方の雑務を片付けて来よう」

風呂場からは、きゃっきゃと楽しそうな声と、時折真田の雄叫びが聞こえていた。


「たっだいま〜っ!」

「ただいまナリ」

やがて、ブン太と雅治が帰宅すると、なんだか家の中がいつもより騒がしい。
二人は顔を見合わせた。

「たこやきの においやーっ!はよ たべたいわ〜!たっこやき、たっこやきーーっ!!」

「こら金太郎!おやつはまだだ!ちゃんと髪乾かしてから…っておい動くな!」

「おれしってる!こいつ ちょーおおぐいで、はやぐいなんだ!はやくしないと、おれの おやつ たべられちゃう!」

「ダメですよ赤也君!君もちゃんと乾かさないと!もっとワカ…いえ、くせ毛になりますよ!」

リビングの扉を開けると、ジャッカルと柳生が二匹のかわいい猛獣と格闘していた。

「なんだよ…誰だよおまえ!?」

「プピッ…!?」

しかし、ブン太と雅治には、じゃれあっているように見えたのだ。
保護者を取られた(と思った)二人は持っていたランドセルを落とし、そのまま乱入して行った。

「…何をしているんだ?お前達…!」

道場から戻って来た柳が、その惨状を見て、思わず開眼した。

「や、柳!助けてくれっ!」

「私達は赤也君達の髪を乾かしていただけなのですが、雅治君達が…っ」

「はなせよ!ジャッカルは おれの〜っ!」

「なんやぁ おまえー!わいの たこやきは やらんでっ!!」

「プーリッ!」

「うわあぁあぁん!まさくんが いじめたーーっ!!」

ブン太と金太郎はジャッカルにしがみついて離れず、ジャッカルは二人にもみくちゃにされ、雅治は柳生の膝から赤也を押し退け、落っこちた赤也は号泣、柳生は雅治を必死で制止している。

其処へ、騒ぎを聞きつけた真田も駆け付けた。

「こらぁーーーっ!!何を騒いでおるかキサマ等ぁーーっ!キェェェェェェーーーッ!!!」

その後、宥められ、叱られ、あやされ……なんとか終戦を迎えた子ども達は、和室に移動して一緒におやつを食べ始めた。それぞれが保護者を独占しながら。
因みにゴンタクレな金太郎の相手をしているのは真田である。

「申し訳ない。まさかこんな事態になるとは…」

赤也を膝に乗せた柳が、溜息を吐く。

「まぁ、タイミングが悪かっただけだ…。気にすんな」

ブン太は胡座をかいたジャッカルの膝の上で、彼の分のたこ焼きを強奪して食べている。

「子ども達が懐いてくれているという証拠です。悦ばしい事ではないですか」

雅治は柳生の膝の上でジュースを飲んでいた。

「たこやき、うまいな〜っ!」

金太郎は真田の膝の上でご機嫌だ。

「おふろも たのしかったでぇ!わい、おっちゃんしゅきや〜!」

「なっ…おっちゃん?!」

「弦一郎、幼児の言う事だ。仕方がない」

「くっ…」

真田は静かに涙を飲んだ。

「なぁ にーちゃん。たこやき、もう たべへんのー?」

そう言って金太郎が見つめているのは、雅治の皿に残ったたこ焼きだった。

ブン太がすぐさま反応するが、「ブン太」とジャッカルに窘められる。

「い、いいもん。おれのが にーちゃんだし、ゆずってやる!」

「よ〜し、良い子だな」

ジャッカルはブン太の頭を撫でてやった。

だが忘れないでいただきたい。
この子は既に自分のたこ焼きを平らげ、ジャッカルの分をほとんど強奪した後である。
彼の脳内では「ジャッカルのものはおれのもの。まさが食べないならおれのもの」という図式が出来上がってしまっているのだ。

油断していると赤也からも強奪する為、食事やおやつの時間には、赤也をブン太の隣に座らせないようにしている。

「おまんに良いもん見せてやるぜよ」

雅治は、楊枝でたこ焼きを一つ突き刺し、立ち上がって金太郎に見せた。

「このたこやきを消してみせるぜよ。ちちんぷりぷり」

雅治が左手でたこ焼きを隠し、次にその左手を取り去ると、楊枝に刺さっていたたこ焼きが無くなっていた。

「うわあああっ!?きえたっ!!なんでなん!?にーちゃん、まほおちゅかいなんか!?」

「おまんの皿をよう見てみんしゃい」

「ああああっ!!?たこやき ふえとる〜〜っ!?」

「ピヨッ」

「しゅご〜〜い!にーちゃん しゅごいわぁーっ!!」

金太郎は増えた分のたこ焼きを満面の笑みで頬張った。

「まさくん すごぉーーいっ!」

「なら、あかやにもやってやるかの。ちちんぷりぷり」

「うわああああっ!?ほんとに ふえたぁーーっ!!」

喜ぶ赤也達を眺め、にやりと笑む雅治。その後は満足したかのように、元の場所に座った。

「雅治君、あなたという子は本当に…一体何処で覚えて来るんですか?」

「……やぎゅう、怒っとる?」

不安そうに見上げてくる雅治に、柳生は「いいえ」と優しく微笑んだ。

「人を笑顔にするペテンなら、大歓迎ですよ。それに、先程泣かせてしまった赤也君への、『ごめんなさい』の代わりだったのでしょう?」

「…そんなんじゃなか。あいつは何でも大げさに反応するけぇ、ちょっとからかってやっただけだっちゃ」

「はいはい。雅治君は良い子ですね〜」

「やぁぎゅっ!うるさいナリ!」

頭を撫でる柳生の手を振り払い、雅治は逃げ出した。そして、一人で縁側に座ったかと思うと、しゃぼん玉を吹き始める。風に舞うしゃぼん玉を見て、金太郎と赤也がはしゃいだ。


おやつの後は子ども達と共に立海道場の稽古に参加した金太郎(といっても金太郎にとっては遊びだったが)。
日暮れには疲れたのか、赤也と一緒に眠ってしまった。


「ただいま〜」

ブン太と雅治が宿題をやっていると、幸村が仕事から帰って来た。

「ゆきむらくん!おかえり〜っ」

「プピーナ」

「今日のロケ先のケーキが美味しかったから、お土産に買って来たよ」

「ダダダダーン!皆さんで食べて下さいですっ」

「やったあ〜っ!!」

太一が持って来た白い箱を見て、ブン太が瞳を輝かせる。

「あ、でも夕飯の後だからね?それまで我慢出来る?」

「おおっ!」

ブン太はガム膨らませて頷いた。
ケーキはジャッカルに渡され、丁重に冷蔵庫に仕舞われる。

「それじゃあ僕は失礼するです。精市兄さま、お疲れさまですっ!」

「ありがとう太一。個展の件はよろしくね」

「はいです!」

ブン太に「じゃあな〜」と手を振られ、太一は立海家をあとにした。

「で、赤也は?金太郎くんも来ているんだろう?」

「あいつらなら部屋でいっしょにお昼寝中だぜぃ」

「もう夕方じゃけどな」

「そうか。さっき白石から連絡があったし、もうすぐ迎えに来ると思うんだけど…」


その時、インターホンが鳴った。




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