立海一家シリーズ

□立海一家と御近所さん達
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【たのしい木の実小学校】


「おっはよー」

「お、ブン太。おはよっ」

「あれ?がくと、ジロくんは?また昼寝?」

「まぁな〜。学校には来てるんだけど…。そっちこそ、におーいないじゃん」

「ああ、あいつも来たには来たんだけどな〜。気づいたらどっか行っちまって」

「まーた“さぼり”かよ?」

「あんがいジロくんといっしょだったりして」

「はははっ!そうかも」

「こーら、笑ってる場合じゃないだろ」

そう言って、ブン太と岳人の頭に手を置いたのは、担任の宍戸先生だった。

「もうすぐ朝の会始まっちまうぞ?探して来い」

「え〜っ!!?」

「え〜じゃない。友達だろうが」

「はぁーい…」

宍戸先生に背中を押され、ブン太は溜息を吐き、岳人は頬を膨らませながら、雅治と慈郎を探しに教室を出た。


「ねこじゃ」

その頃雅治は、裏庭の木陰で眠る慈郎と、彼に寄り添って寝ている猫を見つけ、傍らに近づいた。

「おまえさん、どっから来たんじゃ?」

しゃがんでそう呟くと、猫が目を開ける。高い声でみゃあと鳴き、ぐーんと伸びをした後、此方に寄って来た。
そっと手を差し伸べると、指先に顔をすり寄せる。

「なつっこいのう。飼い猫か?それとも野良か?」

見たところ首輪はしていない。
しかし、慈郎の傍らで寝ていた事から考えても、人間に慣れているのだろう。

抱っこしてみると、嫌がることなく膝に収まる。

「ミャ〜」

見上げてくる瞳が、何かを訴えていた。

「なんじゃ?腹でもへっとるんか?」

雅治はズボンのポケットを探るが、悪戯用のパッチンガムとスーパーボールしか出て来なかった。

「すまんのう。なんも持っとらん。ブン太なら菓子のひとつも持っとったかもしれんのに」

横目で慈郎を見るが、すやすやと寝息を立てている。
期待できそうにないなと「プリッ」と呟くと、不意に頭上から声がした。

「むぞらしか猫さんたい」

少し驚いて視線を上げる。
下駄を履いた大きな男が、雅治と猫を見下ろしていた。

僅かに表情を強張らせた雅治に、男はふにゃりと笑いかける。

「猫さん、お腹すいとっとやろ?これ、あげてみんね?」

男が差し出したのは、おそらく猫用のちいさなビスケット。魚の形をしたそれに、猫は興味を示し、ふんふんと鼻を動かした。

雅治が猫を抱いて、しゃがんだ男の手に近づける。すると、ぱくりとビスケットを食べた。

「あ…」

何度か咀嚼し、飲み込んだ後、またみゃあと鳴く。

「手、出して?」

云われた通り、雅治は猫を膝に下ろし、手を出した。
男は雅治の手の平にいくつかビスケットを落とすと、また笑った。

猫が雅治の手からビスケットを食べる。雅治はそれが嬉しくて堪らなかった。

「こん事は秘密やけんね」

ビスケットを食べ終わった猫を撫でると、男は口元に人差し指を当て、雅治に言った。

何で秘密なのかはよくわからなかったが、なんとなくそうした方が良いような気がして、雅治は「ピヨッ…」と頷いた。

すると男は雅治の頭を撫で、未だ寝ている慈郎の頭も撫でつつ立ち上がり、何処かへ行ってしまった。

「だれなんじゃ…?」

そう呟いた所で、「ジロー!」という大きな声が聞こえ、傍らで慈郎がぴくりと動いた。

「まさー!どこだー?」

続いて自身を呼ぶ声も聞こえてくる。
雅治は猫を膝から下ろし、告げた。

「ブン太がさがしとる。もう行かんと」

猫は首を傾げると、みゃあんと鳴いた。まるで挨拶でもしているかのように。

「…またな」

猫が駆け出し、何処か遠くへ消えて行く。
逆方向から、足音が聞こえた。

「あ、まさみっけ!」

「ジローもみっけ!やっぱ寝てやがったっ」

ブン太と岳人が、顔を出すなり叫ぶ。

「なにやってたんだよ?もうすぐ朝の会始まるぞ!」

「ジロー起きろ!教室行くぞっ」

岳人に起こされる慈郎を横目に、雅治はブン太に「すまんの」と謝った。

「おわびにガムやるけぇ、ゆるしてくんしゃい」

「お、さんきゅ」

そしてパッチンガムに引っかかるブン太。

「てっめぇまさっ!!」

「あ、まるいくんだ!おはよーまるいく〜ん!」

「いいからジローは早く自分で歩けって!」

「ピ〜ヨッ」

「お〜い!もうチャイム鳴るぞ!急げよ〜お前らー!!」

「だってせんせージローがぁ!」

「まさがまたダマしたぁー!」

木の実小学校は今日も平和です。




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