立海一家シリーズ

□立海一家と御近所さん達
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【立海一家の朝】


――朝。すやすやと眠る三人の子ども達の元に、朝食の良い香りが届いた。

「……腹へった!!」

勢い良くベッドから起き上がり、ブン太が叫ぶ。
早く朝ごはんに在り付くべく、急いで着替えつつ他の二人を起こすが、これがなかなか手強い。

「まさー、あかや〜、起きろってぇ!」

そうこうしているうちに子ども部屋の扉が開き、幸村が笑顔を覗かせた。

「おはよう、ブン太」

「ゆきむらくん!おはよっ」

「一人で起きられてえらいね」

頭を撫でてやると、ブン太は嬉しそうに笑った。

「おれ顔洗ってくる!」

駆けて行く小さな背中を見送り、幸村は子ども部屋の奥へ。

「赤也〜雅治〜?朝だよー」

未だ起きない二人に声をかけながら、指でほっぺをぷにぷに。

「やぁ〜…まだねむい…」

「……プリぃ…」

もぞもぞと動くものの、なかなか目が開かない。
赤也はよく寝る子であり、雅治は寝起きが悪いのだ。

「早く起きないと、ブン太に朝ごはん全部食べられちゃうよ〜?」

「むぅ〜…」

「…ピヨ……」

「真田にたるんどるって叱られちゃうよ?」

「ぅう〜…」

「プリッ…」

「起きないとイップスだよ」


――ガバッ!!


「はい、おはよう。えらいね二人とも」

その頃キッチンでは、ジャッカルと柳生が朝食の準備、ブン太はジャッカルのエプロンを引っ張って、味見をせがんでいた。

「ジャッカル〜はやくメシ〜!」

「あと運ぶだけだから待ってろって」

「待てない!おかず味見させろぃ!」

「箸並べて来たらな」

超特急で皆の分の箸を取り出し、和室の座卓に並べて戻って来たブン太。
ジャッカルは「しょうがねーなぁ」と、かぼちゃの煮物を口に入れてやった。

「まいうー!」

「ほら、席ついて待ってろ」

「おうっ!」

元気よくキッチンを出て行くブン太と、雅治がすれ違う。
幸村が赤也の着替えを手伝っている間にさっさと着替えて来た雅治は、味噌汁をよそっていた柳生の足下にやって来た。

「おや、雅治君。おはようございます」

「……おはよーナリ」

まだ眠そうな眼が、柳生を見上げる。
柳生は雅治が後ろ手に何かを持っているのに気付くと、口元に笑みを浮かべた。

「ああ、髪を結って欲しいのですね。今お味噌汁を運んでしまいますから、ソファに座って待っていてくださいね」

「ピヨ」

素直にソファに向かう雅治。

やがて、柳生が雅治の髪を結び始めると、赤也を抱えた幸村が勢い良く入って来た。
ちょうど、真田と柳も道場から戻って来た時の事だった。

「見てよみんな!今朝は赤也が一回もボタンを掛け間違えずに園服を着れたよっ」

そう言って、抱っこした赤也を前に突き出す。
へへっと、赤也本人も満面の笑みだ。

「幸村…赤也ももう幼稚園なんだ。それくらい出来て当然だろう」

「バカだなぁ真田。かかった時間が違うんだよ。今までで一番早く出来たんだ!」

「そうか。確かに赤也は一人で着替えられるようになってからこれまで、47.8%の確率で園服のボタンを掛け違え、その度に一からやり直していた。早く着ようとする程そういった傾向にあり、焦らず落ち着いてやれば良いと気長に見守っていたが、ついに記録更新か」

「む…」

「成長したな。赤也」

優しい面差しで、柳が赤也のくせっ毛を撫でる。
真田はひとつ咳払いをすると、ぎこちなくだが、「よくやった」と伝えた。

褒められてご機嫌な赤也を席に座らせると、先に食卓についていたブン太が今か今かとご飯を待っていた。

「じゃあみんな、朝ごはんにしよう」

料理が出揃った座卓を皆で囲み、手を合わせる。

「いただきます」という挨拶と共に、食事が始まった。
立海一家の朝食は、基本的に和食である。

「今日の卵焼きは、精市の作か」

「うん。最近忙しくて道場も家事も任せっきりだったし、苦労かけてるからね。今日みたいなゆっくりな朝くらい手伝おうと思って」

「流石は幸村だ。たるんどらん」

「といっても、それ一品だけなんだけどね。俺が作ったの」

「その一品が助かりますよ。幸村君のだし巻き卵は絶品ですし」

「チビ達用に甘いのも作ってくれたんだろ?」

ブン太・雅治・赤也の前にあるのは、砂糖を入れた甘い卵焼き。もっともブン太はとっくに平らげてしまっているが…。
大人達が食べているのはだし巻き卵である。

「ふふっ。卵焼きなら自信があるからね。久しぶりに張り切っちゃった。あ、赤也?またそんな食べ方して。骨の取り方、練習しなきゃね」

焼き魚に悪戦苦闘している赤也を見て、幸村が困ったように微笑う。
横から柳が箸の持ち方を直してやりつつ、手本を見せてやった。

「おおーっ」

きれいに骨を取り除いてゆく柳を見て、赤也は目をきらきらさせながらパチパチと手を叩いた。

「赤也はまだ箸が苦手か!毎日俺と共に豆を100粒移すといい!」

「え〜?!やだっ」

「たわけ!ジャッカルもかつては箸が苦手だったが、豆を移す事で克服したのだぞ!」

「いや、俺を引き合いに出さなくても……あっ!こらブン太!それマサのだろ?」

「だってくれるってゆーんだもんっ」

既に食べ終えていた筈のブン太の皿に、ある筈の無い卵焼きが。そのうち一切れはもう口の中だ。

「雅治君…」

柳生と目を合わせる事なく、焼き魚をつつく雅治。
半分ほど残し、「もう腹いっぱいじゃ」と呟いた。

「君がお魚よりお肉を好むのは知っています。ですが、好き嫌いしていると、大きくなれませんよ」

「相変わらず雅治の摂取カロリーは平均を大きく下回っている。対してブン太は血糖値がやや高めだ」

「二人を足して2で割ったら、ちょうど良さそうなのにねぇ」

柳のデータに、幸村が苦笑する。
柳生は自身の皿を少し前に出した。

「せっかく幸村君が作ってくれたんですよ?一切れだけでも食べたまえ」

「プリッ…」

雅治は唇を尖らせながらも、柳生の皿から卵焼きを取って口に入れた。徐に咀嚼した後、僅かに表情が変わる。

「おれこっちの方がすきじゃ」

幸村と柳生は顔を見合わせた後、頬を緩めた。

「よく食べられましたね。えらいですよ」

「食べてくれてありがとう。雅治はだし巻き派なんだね」

「おれのがいっぱい食べたぜぃ!」

「うん。ブン太もたくさん食べてくれてありがとね」

「おれもっ、あむ…んぐっ…おれも たべた〜!」

「そうだね。赤也もありがとう。でもよく噛んで食べようね」

対抗するように次々と主張する子ども達を微笑ましく見守りながら、和やかな朝の時間は過ぎて行った。


「ほら、まさ行くぞ!いってきまーすっ」

「…いってくるぜよ」

小学生の二人が登校し、赤也も幼稚園に行く準備をしていると、「おはようございますです!」と、玄関に朗らかな声が響いた。

「太一です。精市兄さまをお迎えに来たです!」

「おはよう。精市ならまもなく来るだろう。いつもすまないな」

「とんでもないですよ。赤也くんは、今から幼稚園ですか?」

一生懸命靴を履いている赤也の前にしゃがみ、太一が笑いかける。
赤也は跳ねるように立ち上がり、「うんっ」と頷いた。

「では、行こうか」

差し出された柳の手を握り、赤也はもう片方の手を大きく振る。

「たいちくん ばいばーい」

「はーい。いってらっしゃいです」

太一もにこやかに振り返すと、奥の部屋から幸村が出て来た。

「あ、赤也。いってらっしゃい!」

「いってきますっ」

「俺もいってくるね!」

「うんっ!せいくんも いってらっしゃーい」

赤也は柳の運転で幼稚園へ。
幸村はそれを見送った後、太一と共に別の車に乗る。

「可愛いですね。赤也くん」

「だろう?あ、でも太一のことも可愛いよ。俺の大事な弟だからね」

「はいですっ」

「さて、俺達も行こうか。今日も頼むよ、亜久津?」

運転席には、不機嫌そうな亜久津が座っていた。
車内は禁煙と云われている為、煙草を吸う事も出来ずイライラしている。

「今日はケーキ屋さんでのロケもあるです。楽しみですね亜久津先輩っ」

一つ舌打ちをして、亜久津はアクセルを踏んだ。全てはモンブラン(栗入り)の為に。




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