也
□『Merry X'mas…from your Santa claus』
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一体、どういう事なんだ?
あの人は俺が入部した頃からテニス部のマネージャーで、先輩達の話じゃ、俺はすげぇ懐いてて、だけど、俺は全然覚えてねぇ。
どうなってんだよ?こんな事あんのか?
これって、記憶喪失?
…でも、先輩達の事はちゃんと覚えてるぜ?
つーか、立海に入学した時の事も、そのずっと前も今までの事も全部覚えてる。
そんなわけねぇよ。
何で…?あのマネージャーの事だけ、全然わからない。
何一つ、覚えてない…。
『また寝坊したの?赤也』
あの口ぶり、あっちはやっぱ俺の事知ってんだろうな…。
俺の事『赤也』って呼んでたし。
けど…俺は……
『構わないわ』
でも、覚えてなくても構わないとか言ってたし、初めましてとか言われた。
あの人にとって俺は、そんなたいした存在じゃなかったって事か…?
俺はけっこう慕ってたらしいのに…先輩達の話じゃ…。
何か、悔しいぜ。覚えてねぇのに。
「切原君」
俺の思考を邪魔したのは、そのマネージャーの声だった。
「な、何スか?」
まだ慣れない会話。
当たり前だ。
俺にとっちゃ今朝初めて会った人なんだから。
「練習、集中できてないみたいね。朝練の時もそうだったし。私の事なら、気にしなくていいから」
「…けど」
「テニスをするのに、余計な事は考えなくていいの」
…あ、何かムカついた。
この人の事だけ覚えてないとか、悪い事してんのかなとかちょっと思ったりしてんのに、何だよそれ?
気にいらねぇ、この女…。
「アンタさぁ…うぜぇんだけど!」
よし、言ってやった。
「マネージャーとして世話焼きたいんだろうけど、ちょっと干渉し過ぎじゃないっスか?部活の事はまだしも、今朝の格ゲーの事とか、アンタに言われる筋合い無いし。アンタ俺の姉貴か母親のつもりでいんの?偉そうに先輩ヅラして保護者気取ってんじゃねーよ」
心地良い優越感。
だけど俺は見てしまった。
マネージャーの、悲しそうな瞳。
「な…何スかその顔。俺が悪者みたいだからやめてくれません…?」
「ごめんなさい。私…そんなに変な表情してる…?」
「いや…」
おかしい…寧ろ無表情なのに。
さっきのは、俺の見間違いだったのか?
「赤也…」
「気安く呼ぶな!」
おかしい…何だこれ…?
さっきから俺の中の何かがおかしい。
それが、名前を呼ばれた瞬間、痛みにも似た感覚に変わった。
何だよこれ…俺は……
「俺…もう帰るっス」
此処にいたくない。
「切原君…」
「お疲れっした!!」
俺はコートを飛び出していた。
痛ぇ…いろんなトコが…。
「クソッ!!」
何で俺がこんな思いしなきゃなんねぇんだよ!!