也
□本日限定
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月乃先輩と一緒に部室を出ると、部活中には曇っていた空に、星が出ていた。
「赤也、今日何の日?」
「へ?今日って何かありましたっけ?」
「七月七日」
「あ…七夕!」
そういえばそうだ。今日は七夕だった。
「だから俺に会いに来てくれたんスか?月乃先輩!」
「どういう事?」
「今日は年に一度、織姫サンと彦星サンが会う日じゃないっスか!俺も久しぶりに月乃先輩に会えて、嬉しかったっス!」
今度は、自然と笑いが零れた。
やっぱり、月乃先輩といられるのは嬉しい。
「昨日は雨だったけど、今は星も出てるし、ちゃんと会えますよね?俺達みたいに!」
「織姫と彦星と、知り合いみたいな事言うのね、赤也」
「だって、二人が会えなきゃ、願い事叶えて貰えないじゃないっスか?」
「お願い事?」
「そ。あ、ほら月乃先輩!あっちの神社で七夕祭やってるんスよ。行きましょ!」
月乃先輩の手を取り、人がたくさんいる方へ速足で向かう。
たくさんの笹の葉と、そこに吊されている色とりどりの短冊が見えてきた。
「俺赤がいいっス!赤いの下さい!」
配られている短冊を二枚貰い、一枚を月乃先輩に渡した。
それを受け取ると、月乃先輩が笑った。
「どうしたんスか?」
「何か…相変わらずだなと思って」
「何がっスか?」
「周り、見て?」
言われたとおり周りを見渡す。
「…あ」
短冊を貰っているのも、一生懸命願い事を書いているのも、笹に短冊を吊しているのも、みんなガキばっかりだった。
「べ、別にいいじゃないっスか!願い事すんのに歳は関係無いっス!叶うんだから!」
「赤也は毎年お願い事して、全部叶ってるの?」
「当たり前じゃないっスかぁ。書けば叶うんスよ?」
去年は『新しいラケットをください』って書いた。
次の日親父が買ってきてくれた。
一昨年は『小遣いアップ!』だった。
これも叶った。
その前は『テニスが上手くなりたい』だった。
でもすぐには上達しなくて、何で叶わないのか聞いたら、雨で天の川が渡れなくて、織姫サンと彦星サンが会えなかったからだって姉貴が教えてくれた。
短冊に書かなくても、赤也がたくさん練習すれば上手くなるって言われたから、俺はいっぱい練習した。
月乃先輩に言うと、「今年は何をお願いするの?」と聞かれた。
「へへっ、内緒っス。月乃先輩は?」
「『赤也がこれからも部長として頑張れますように』」
「そんなの短冊に書かなくても頑張りますよ!」
でも、月乃先輩の願い事が俺の事ってのは、やっぱり嬉しかった。
俺達は願い事を書いた短冊を笹に吊した。
「そういえば赤也、マネージャーは?募集しないの?」
「月乃先輩以外のマネージャーなんか要らないっス」
「赤也…」
「俺を支られるの、月乃先輩だけっスから」
俺は自分の短冊を見据えながら言った。
ちゃんと叶えてくれよな、織姫サンに彦星サン。俺の願い事。
『月乃先輩と、ずっとずっと一緒にいられますように!』
「よしっ!月乃先輩の願いを叶える為にも、明日からまた頑張るっス!」
「しっかりね?赤也部長」
「任せて下さいよ!」