□呑気で無邪気な特技
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「香宮、甘やかすな。叩き起こしてやれ」

「いいの。寝かせてあげて?」

珍しく真田と意見が違えた月乃。

赤也の無垢な寝顔を見ると、起こすのは憚られた。

「重くありませんか?」

少し離れている柳生が、声を抑えて聞いた。

「大丈夫」

月乃の表情は穏やかだった。

「気持ち良さそうな顔しやがって、のんきなヤツだなぁ〜。悪戯してやろっかな」

「やめて丸井くん。赤也がかわいそう」

「起きた時に隣の香宮が真田に変わってたりしたら、驚くじゃろうな」

「仁王君まで…」

楽しそうに言う仁王を、前に立つ柳生が窘める。

「せっかく寝てるんだから、このままにしてあげて?」

月乃のその言葉に、皆は静かになった。


「…月乃……」

眠ったまま、赤也の口が僅かに動き、そう発した。

「…せん…ぱぃ…」

右手が動き、さまよう。

月乃の手にぶつかった時、その手を強く握った。

「…へへ…っ…」

「こいつ、寝ながら笑ってるぜぃ」

「幸せそうな顔してんなぁ」

ブン太とジャッカルがそう言った時、駅に近付いた電車が大きく揺れた。


「――っ!?」


赤也の身体が倒れた。

月乃に覆いかぶさるように。

「…っ…赤也…!」

「…月乃…先輩……」

赤也は未だ眠ったまま…。


「赤也……起きんかー!!たわけがぁぁぁっ!!」


駅に着いた電車からは、真田の怒声が響いていた。







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