赤
□聖ニコラウスの訪問
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「――というのが、サンタクロースの由来なんだけど…」
月乃は、ゆっくりと赤也に説明した。
「…赤也…?」
恐る恐る、赤也の様子を窺う。
「…いないんスか?」
赤也は、呟くように聞いた。
「サンタクロース…本当はいないんスか…?」
赤也は涙目で月乃を見る。
「いるわ」
「本当っスかっ?」
「グリーンランド国際サンタクロース協会っていう組織があって、世界に180人以上、公式のサンタクロースがいるの」
「…??」
明るくなった赤也の顔に、疑問符が浮かぶ。
「サンタクロースの由来となった聖ニコラウスは存在していたし、サンタクロースの活動をしている人達も存在している。サンタクロースは架空の人物ではないわ。だけどね…」
月乃は一層気を遣いながら続けた。
「サンタクロースの数は限られているし、全世界の人達にプレゼントを配る事は…不可能だから…」
赤也は目を見開いた。
「でもっ…俺は毎年プレゼント貰ってるっス!」
「それは…」
月乃は言葉を探した。
「サンタクロースの、代理をしている人がいるの」
「へ…?」
「…家族とか、恋人とか…その人の事をとても大切に思っている人が、サンタクロースの代理をするの。アメリカだって、24日の夜中に、親が子どもの為にツリーの下にプレゼントを置くのよ。それを、25日の朝、子ども達が開けるの」
赤也はやはり不思議そうな表情で、月乃の話を聞いている。
「赤也にプレゼントをくれるサンタクロースの代理は、たぶん…ご両親…だと思う」
「…」
伝えてしまった事実。
幼稚園児や小学生ではないので、泣きわめいたりはしなくとも、少なからずショックは受けるだろう。
「…そうっスか」
赤也は複雑な笑顔を見せて、部室を出ていった。
「…っとにしょーがねぇなぁ。赤也のヤツ」
「いずれはわかる事だ。仕方がないな」
「すみません。香宮さんにこんな役目を…」
「俺じゃなくて良かったぜ…」
「元はといえば、真田が悪いんだよ。『中二にもなってサンタクロースなどとはたわけた事を』とか言うから」
「すまん…。まさか本当に信じているとは…」
「プリッ…」
様子を見ていたレギュラー達が、口々に言う。
月乃は心配そうに、赤也が出ていった部室のドアを見つめていた。