立海一家シリーズ
□立海一家のピクニック
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「よし、これで下拵えは完了かな」
「明日はチビ達も早く起こして、手伝わさせねーとな」
「楽しみですね」
幸村、ジャッカル、柳生がキッチンから出て来ると、リビングで何やら奮闘している子ども達が目に入った。
「みんな、何してるの?」
「あのね!てるてるぼうず!」
幸村が訊くと、赤也が元気よく立ち上がり、作品を見せる。
小さな手の中で、それはにっこり笑いかけてきた。
「おや、この照る照る坊主、幸村君に似てますね」
柳生が眼鏡の位置を直しながら言う。
ジャッカルも、「本当だ。そっくりだぜ」と笑った。
「赤也、この照る照る坊主、もしかして俺なの?」
へへぇ、と赤也が破顔する。
テーブルの上には、他にもいくつか照る照る坊主が乗っていた。
「あかやのやつ、さいしょは何も考えないで作ってたんだぜぃ。で、おれたちが、それゆきむらくんに似てね?っていったら」
「ほかのも似てきたから、おれらも作ってみたナリ」
ブン太が作った照る照る坊主は、頭の部分を茶色の折り紙で包んであり、雅治の照る照る坊主は眼鏡が描かれている。
それを見たジャッカルと柳生は、互いに視線を交わし、早速窓辺に吊すのを手伝い始めた。
「こっちは、さなださんとやなぎさんなの!」
眉を釣り上げへの字口の照る照る坊主と、目を閉じて微笑む照る照る坊主。
赤也はそれらも自慢げに見せる。
「すごい!よく似てるなぁ。真田と蓮二にも見せたいね」
「此処に居るぞ。レジャーシート他、持ち物の準備は整えた」
「車も準備万端だ!」
ご満悦ぎみの真田が肩車をしてやり、柳に手伝って貰いながら、赤也も照る照る坊主を吊す。
すると、その隣にまた照る照る坊主が増えてゆく。
「あれ?せいくん?」
「ふふっ、俺も作っちゃった」
幸村はあっという間に照る照る坊主を3つ作った。
頭(髪)の部分が、赤いの、白いの、黒いの…。表情もそれぞれの特徴を捉えていて、今にも「だろぃ」だとか「プリッ」だとか「へへっ」といった声を発しそうだった。
「ピヨッ?」
「ゆきむらくん!それおれたちっ?」
「正解〜」
「せいくん、やっぱり おえかき じょうずっす!」
窓辺に並ぶ8つの照る照る坊主のお蔭か、翌日は晴天に恵まれた。
立海一家は真田が運転する車に乗り込み、目的地へ向かう。
お菓子を食べたり、トランプをしたりして遊んでいると、あっという間に山の麓に辿り着いた。
「うわぁ!すっげぇ〜っ」
車から飛び降り、子ども達は目を瞠った。
「見事に紅葉していますね」
「風流だな」
柳生や柳も感嘆し、目を細める。
「さぁ、此処からは歩きだよ。皆、荷物は持ったかい?」
幸村の問いに「イエッサー!」と答え、皆リュックを背負って山道をゆく。
景色を楽しみながら暫く歩くと、赤也が「あっるっこー あっるっこー♪」と大きな声で歌い出し、其処へブン太も加わった。
「これは何の歌なのだ?」
「となりのトトロの“さんぽ”だ。幼稚園で観たらしい」
「ふふっ、懐かしいなぁ」
保護者達は微笑ましく見守っているが、歌詞通り「どんどん行こう」とする二人を慌ててジャッカルが追いかけ、危ない場所に行かないようにしている。
「雅治君は歌わないのですか?」
「プリッ…」
雅治は元来大声で歌うような性格ではなく、音楽の授業も苦手だ。なのでひたすら自分のペースで歩いていく。
しかし、先程拾った木の棒が、聞こえてくる赤也達の歌声に合わせてゆらゆらしているのを、柳生は見逃さなかった。
「楽しいですね」
敢えて「楽しそうですね」とは言わない。
「そぉか?山なんてめんどうなだけじゃ」
「まさくーん!!」
すると、前方から赤也が呼んだ。
「どんぐり いっぱいあるよ〜っ!!」
そう言って、落ち葉の絨毯の中にしゃがみ込み、ブン太と一緒にどんぐりを拾っている。
「まさ〜、はやく来いよー!」
ブン太にも呼ばれ、雅治は何度かゆらゆらさせた後、木の棒をぽいっと手放した。
「しかたないのう。今行くぜよ」
結局三人でどんぐりを拾いながら、そしてジャッカルは、どんぐりのたくさん入った袋を持たされながら歩いた。
頂上付近には、アスレチックなどの遊び場があり、子ども達ははしゃぎながら群がった。
山といっても、小さな子どもが遠足で来れる程度の高さであり、普段立海道場で鍛錬をしているこの子達は疲れた様子もない。
「おーい、そろそろ食事にしよう」
柳の呼びかけに、「はーい」と答えてアスレチックから降りて来る子ども達……と、幸村。
「全く、何処へ行っていたのかと思えば、一緒になって遊んでいたとはな」
「いいじゃないか真田。楽しいよ?ね〜?」
そう言って、幸村は子ども達と同じように、柳生から受け取ったウェットティッシュで手を清めた。
広いレジャーシートの上には、大きな重箱がいくつも並んでいた。今朝みんなで作ったお弁当だ。
「いただきます!!!!!」
全員で手を合わせた後、ブン太は早速おにぎりにかぶりついた。
ブン太が自分でにぎった特大おにぎりは、まるでボールのようだ。
「ブン太…!お前いつの間にそんなデッカイの作ったんだYO!?」
「具ぜんぶ入れたからな!どこかじっても具が出て来るんだぜぃ。天才的だろぃ?」
「けどそれ重箱には入ってなかっただろ?」
「おれのリュックに入れて来たからなっ」
ブン太のリュックは、お菓子は車の中で食べてしまい、特大おにぎりも引っ張り出された為、中身がほとんど無くぺしゃんこ状態だった。
帰りはこれに拾ったどんぐりを詰める予定だ。
「おや?雅治君のおにぎりは、随分小さいですね?」
「となりでブン太があんなもん作っとったからの…食欲失せた」
その俵型の小さなおにぎりも、雅治は未だ口にしようとしない。重箱からタコさんウインナーなどの肉類ばかりをとって食べていた。
「では、私のおにぎりと、ひとつ交換しませんか?」
「やぎゅうの?」
「はい、これです」
柳生が雅治の皿に乗せたのは、きれいに型抜きされたおにぎり。
「…ねこじゃ」
海苔で目や鼻もついていて、可愛らしい出来映えだ。
「具はしらすと野沢菜です。猫さんはお魚が好きですしね」
「ピヨ…」
雅治は野菜や魚をあまり食べたがらないのだが、これは気に入ってくれたらしい。
いつも雅治の偏食について相談している柳に視線を送ると、目元を緩めて頷いた。
「きんぴらも食べてくれると、嬉しいんですけどねぇ」
「にんじん、イヤじゃ」
「今日は紅葉の形ですよ」
「…プピーナ?」
「デザートにはうさぎさんの林檎もありますよ」
「プーリッ」
赤也は三角ににぎろうとして歪な形になってしまったおにぎりを、気にせず頬張っていた。
「赤也のおにぎりは何が入っているんだい?」
「んっとね、たらことこんぶ!」
「へぇ、おいしそうだな。そうだ、今日の卵焼き俺が作ったんだよ。食べてくれる?」
「うん!おれ せいくんのたまごやき すきっ」
幸村は箸で卵焼きを掴むと、あーんと赤也の口に入れてやる。
「あ、赤也。ほっぺにご飯粒がついているよ」
「へ?」
その後手をのばし、赤也の頬についた米粒をとっていった。
「相変わらずお前は早食い過ぎるな。もっと落ち着いて、ゆっくり食べたらどうだ?」
柳は水筒からカップにお茶を注ぎ、赤也に渡した。一つ目のおにぎりで汚れたその小さな手を、ウェットティッシュで拭ってやった後で。
「はーい」
赤也はカップを受け取ると、早速こくりと一口飲む。
「お前達…少し赤也を甘やかし過ぎではないか?」
向かい側に座っている真田が、眉間に皺を寄せて言った。
「え〜、そう?」
「俺も別段そんな風には思わないが」
真田の厳しい眼差しにも、幸村と柳は臆する事はない。
赤也だけが少し緊張したが、それも幸村の言葉で弛緩していった。
「それに、甘えてもらえるうちは、俺は甘やかしてやりたいけどな。大きくなったら、反抗期とかでいやでも甘やかせなくなるだろうし」
「中学生になる頃には、赤也もかなり生意気になるだろうな」
「そのうち、『真田さんなんか嫌いっス』とか言ってお風呂も一緒に入ってくれなくなるんじゃない?」
「なっ…!?」
思わず赤也を凝視してしまう真田だったが、その顔付きが怖かったのか、赤也はびくりと肩を震わせた。
幸村はその様子を見て、ふふっと朗笑を漏らした。
「ほら、真田嫌われちゃった」
からかうように言う幸村を、「程々にしておけ、精市」と柳が諫める。
「弦一郎が本気にして落ち込む確率、100%だ」