也
□後輩恋夜
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「あのっ…今日祭りがあるらしいんス!行きましょーよ先輩達!!」
「先輩達ではなく、“先輩”だろう?」
その日、部室での俺の言葉は、柳先輩にすかさず訂正された。
…バレてら。
本当は俺が一人の先輩を意識してるって事。
「まぁいいじゃないか柳。協力してあげようよ」
そこでそう言ってくれたのは、幸村部長。
「かわいい後輩の為だからね」
部長はマジで神の子だ。
いや、神様だと思った。
「月乃先輩っ!」
待ち合わせ場所に現れた月乃先輩は、まず怪訝な表情を浮かべた。
「赤也、だけ?皆は?」
俺と違って遅刻なんてしない筈の先輩達が、誰一人来ていない事を、不思議に思ってるんだろうな。
「ん…っと、ジャッカル先輩は親父さんの店手伝うとかで、真田副部長と柳先輩は花火見ながら書をたしなむとか…、丸井先輩と柳生先輩と幸村部長は弟妹を連れて行くからって」
「仁王くんは?」
「気付いたらいなくなってました」
「…そう」
月乃先輩は少しの間何か考えていたが、やがて納得したようにそう言った。
「だから、俺と二人で行きましょーっ。いいっスよね?」
本当は選択肢なんか無いんだ。
こんな聞き方したら、月乃先輩は断れないって俺は知ってる。
「わざわざこんな格好してきて、此処で帰ったら馬鹿みたいでしょ?」
月乃先輩はそう言って微笑んだ。
こんな格好ってのは浴衣の事だ。
先輩達の誰か(たぶん幸村部長)が、祭りなんだから浴衣で来るようにって言っておいてくれたらしい。
ありがとう部長。
ありがとう先輩達。
先輩達の計画は完璧だったっス。
俺、立海テニス部に入って良かった。
「浴衣…キレイっス!」
「ありがとう。あんまり着慣れないけど、この柄にして良かった」
ま ち が え た。
キレイなのは浴衣の柄じゃなくて月乃先輩の方なのに…!
「いや、あのっ…」
「お祭り、赤也が連れてってくれるの?」
「は、はい!もちろんっス!」
そうだ。
後輩だろうと男なんだからちゃんとエスコートするようにって柳生先輩が言ってた。
「こっちっス!」