□赤也の鉢植え
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「待って真田くん!」

「へ?」

月乃先輩がデカい声を上げるなんて珍しい。

そんなことを思ったのも一瞬で、頬に物凄い衝撃を受け、俺の身体は吹っ飛んだ。

「このたわけが!!」

鬼のような形相で俺を睨みつけながら、真田副部長が怒鳴る。

「…ってぇ!」

そこでやっと、鉄拳制裁を受けたんだと気が付いた。

「何すんスか!?」

激しい痛みに頬を手で押さえながら、真田副部長に抗議する。

だって身に覚えがない。
俺は何もしてないのに、殴られるなんておかしいだろ。

「赤也…お前は自分が何をしたのか解っていないのか」

副部長の隣で、柳先輩が言う。

冷静な口調だったが、その声にはいつもの諭すような穏やかさが無かった。

「わかんねぇっスよ!何でいきなり怒られなきゃなんねーんスか!?」

「お前、精市の見舞いに何を持っていった?」

「幸村部長の、見舞い?」

確かに、俺は昨日個人的に幸村部長の見舞いに行った。
幸村部長は植物が好きだから、鉢植えを持って。
でも、それが一体何だってんだよ?

「真田くん、柳くん…」

ワケがわからないでいると、そう言って月乃先輩が俺の前に立った。
まるで、俺を庇うみたいに。

――なんだか、泣きそうな声だった。

「赤也はたぶん知らなかったの。私がちゃんと説明する。説明させて…?だから、これ以上は…」

「だが…!」

「もう鉄拳制裁は受けてるでしょう?」

月乃先輩の言葉の後、真田副部長が勢いを無くした。

俺からは見えないけど、月乃先輩の顔を見てからだ。

「弦一郎、此処は彼女に任せよう」

柳先輩の声も、さっきよりいつもの感じに近くなった。

「…いいだろう」

真田副部長の怒った顔が、一瞬、つらそうに見えた。



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