也
□雨の日の駅にて
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目の前で揺れるそれは、時折吹く風でさらさらとそよぐ。
その艶やかさに、赤也は見とれた。
思わず、手をのばす。
そっと。
でも確実に、その光沢を捕まえる。
どうしても、触れたくて。
「…?」
月乃はそれに気付き、振り返った。
「赤也、何?」
「え?あ…すみませんつい!」
我に返った赤也は、急いで手を離した。
「キレーだなぁって思ってたら、なんか触りたくなったっつーか…気付いたら触ってたっつーか…」
「掴んでた、の間違いでしょう?」
「や、その…ごめんなさい」
怒られたと思った赤也は萎縮した。
そして、怖ず怖ずと訊ねる。
「痛かったっスか…?」
「痛かったわけじゃないけど、急に髪掴まれたら吃驚するじゃない」
「そうっスよね…。でも、月乃先輩の髪ほんと綺麗だし、サラサラで羨ましいっス!俺なんか癖っ毛ですぐ広がるし、今日みたいな雨の日は最悪っスよ〜」
ワックス使ってるんスけどねー、と困った笑顔を浮かべると、月乃の手が近付いてきて、赤也は瞠目した。
乗せられたのは、頭の上。
先程とは逆に、月乃が赤也の髪に触れる。
この場合は、撫でる、が正解かもしれない。
「へ…先輩っ?」
「赤也らしくて良いと思うけど?私は」
優しくそう云い、月乃が微笑む。
それだけで、赤也は羽根でも生えたかのような気分になった。
雨と湿気で、さっきまでは何もかも重苦しくて仕方なかったのに。
「本当に?」
「本当に」
「マジで本当に?」
「マジで 本当に」
何度も確認すると、月乃は赤也の言葉をゆっくりと繰り返し、肯定に変えた。
「へへっ」
赤也は嬉しくて堪らない。
顔が緩むのが抑えきれない。
電車に乗った後も、赤也はご機嫌なままで、車内は少し窮屈だったものの、寧ろ月乃の傍に立つ事が出来て喜んでいた。
赤也の視界で、また、月乃の髪が揺れる。
発車した電車の揺れに合わせて…。
「………赤也?」
「目の前で揺れてると、やっぱ触りたくなるっス」
「猫じゃないんだから…」