□雨の日の駅にて
1ページ/1ページ




目の前で揺れるそれは、時折吹く風でさらさらとそよぐ。

その艶やかさに、赤也は見とれた。

思わず、手をのばす。

そっと。

でも確実に、その光沢を捕まえる。

どうしても、触れたくて。

「…?」

月乃はそれに気付き、振り返った。

「赤也、何?」

「え?あ…すみませんつい!」

我に返った赤也は、急いで手を離した。

「キレーだなぁって思ってたら、なんか触りたくなったっつーか…気付いたら触ってたっつーか…」

「掴んでた、の間違いでしょう?」

「や、その…ごめんなさい」

怒られたと思った赤也は萎縮した。
そして、怖ず怖ずと訊ねる。

「痛かったっスか…?」

「痛かったわけじゃないけど、急に髪掴まれたら吃驚するじゃない」

「そうっスよね…。でも、月乃先輩の髪ほんと綺麗だし、サラサラで羨ましいっス!俺なんか癖っ毛ですぐ広がるし、今日みたいな雨の日は最悪っスよ〜」

ワックス使ってるんスけどねー、と困った笑顔を浮かべると、月乃の手が近付いてきて、赤也は瞠目した。

乗せられたのは、頭の上。

先程とは逆に、月乃が赤也の髪に触れる。

この場合は、撫でる、が正解かもしれない。

「へ…先輩っ?」

「赤也らしくて良いと思うけど?私は」

優しくそう云い、月乃が微笑む。

それだけで、赤也は羽根でも生えたかのような気分になった。

雨と湿気で、さっきまでは何もかも重苦しくて仕方なかったのに。

「本当に?」

「本当に」

「マジで本当に?」

「マジで 本当に」

何度も確認すると、月乃は赤也の言葉をゆっくりと繰り返し、肯定に変えた。

「へへっ」

赤也は嬉しくて堪らない。

顔が緩むのが抑えきれない。

電車に乗った後も、赤也はご機嫌なままで、車内は少し窮屈だったものの、寧ろ月乃の傍に立つ事が出来て喜んでいた。

赤也の視界で、また、月乃の髪が揺れる。
発車した電車の揺れに合わせて…。




「………赤也?」

「目の前で揺れてると、やっぱ触りたくなるっス」

「猫じゃないんだから…」







 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ