□カカオ70%
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「赤也」

「…へっ?」

「ちゃんと聞いてる?」

「あ……へへっ」

集中していなかったのを笑って誤魔化そうとすると、向けられた、月乃先輩の厳しい眼差し。

「〜〜だって英語わかんないんスもん!もうヤダやりたくないっス!!」

握っていたシャーペンをテーブルに放り投げ、俺は開き直ってそう主張する。

いい加減勉強は飽きた。

握るならラケットを握りたい。

だいたい、せっかく月乃先輩と二人きりなのに、勉強なんてしたくない。
それが一番の本音。

「じゃあ、ちょっと休憩しましょう」

月乃先輩は諦めたようにそう言い、席を立った。

戻って来ると、その手にはグラスが2つ。

はい、と1つを俺の前に置き、再びソファに座る。

俺は礼を言って、中身のジュースを一気に飲み干した。

「ふー…」

一息吐き、濡れた唇をペロリと舐めると、正面に座る月乃先輩を見た。

「何?おかわり要る?」

俺の視線に気付いた月乃先輩は、空のグラスを見てそう訊いた。

「いや、いいっス」

再び立ち上がろうとした月乃先輩を言葉で止めて、代わりに俺が立ち上がる。

月乃先輩の前まで行くと、不思議そうな顔して俺を見上げた。

「へへっ」

それで俺は、今度は期待を込めて笑う。

月乃先輩を見下ろすように、少しかがめて顔を近付ける。

「…赤也」

「はい?」

「何がしたいの?」

訝る月乃先輩を気にする事なく、俺はその体勢のまま言った。

「仲良くしたいんスよ。月乃先輩と」

「勉強教えてあげてるじゃない」

「勉強なんかどうでもいいし」

「良くない。また赤点取ったらどうするの?」

月乃先輩は一歩も引く気はないみたいだ。
相変わらず厳しいねぇ。

「今は休憩中でしょ?」

「ならもう終わり」

「先輩〜」

「真面目にやらないと…」

「真面目にやったら、何してくれるんスか?」

両手をソファの背もたれに置いた。
また、月乃先輩と距離が縮まる。

厳しかった月乃先輩の表情が揺らぐ。

逃げ場は無い。

「すぐそうやって何か要求するんだから…」

「月乃先輩効果は絶大なんスよ。だから、」

何かご褒美が欲しい。
そう言おうとしたのに、俺は口を噤むしかなかった。
口の中に何かが侵入してきたんだ。
月乃先輩の手によって。



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