□英単語
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※カゴプリネタです。




「英単語!英単語!」

走り込みの最中、赤也は“英単語”をリズムよく繰り返していた。

「…赤也?」

月乃はそれを不思議に思った。
一体何の為に…?

「何スか?月乃先輩!」

呼ばれた赤也が、元気に駆け寄って来る。

「さっきからどうしたの?英単語…って?」

「へへっ、こうすれば英単語が覚えられるらしいんス!柳先輩が言ってました!」

「そうなの…?」

「はい!」

月乃は更に不思議に思ったが、得意満面に答える赤也を見て、それ以上は何も言えなかった。


「…柳くん」

「何だ?香宮」

代わりに、月乃はデータ整理中の柳に声をかけた。

「赤也なんだけど…」

「ん?赤也がどうかしたのか?」

月乃に促され、柳は赤也に視線を移した。

「英単語!英単語!」

赤也のその様子に、硬直する柳。

「やっぱり赤也、何か勘違いしてる?」

「俺は、『英単語を繰り返す』とは言ったが『“英単語”と繰り返す』などとは言っていない」

はっきりと、柳は間違いを正した。

「…」

「どうした?」

唐突に俯き、月乃は言葉を発しなくなった。

「な…何でもないの…」

やっと吐き出したその声に、柳は僅かな震えを感じとっていた。

「香宮…」

「月乃先輩?どうしたんスか?柳先輩と何の話……月乃先輩?」

月乃の異変に気付いたのか、赤也が走り込みを中断して様子を窺いに来た。

「…私っ…ごめんなさい…」

月乃は手で口元を押さえ、赤也から顔を逸らすように、その場を去って行った。

「せ…先輩っ」

残された赤也はどうしていいかわからず、ただ立ち尽くしていた。

「あの香宮でさえ、口元が緩むのを抑えきれなかったようだ。流石だな赤也」

「…へ?」

「いや…香宮はお前が可愛くて仕方ないらしい」

「ええっ?!」

馬鹿な赤也が微笑ましくて、本人の前で笑みを抑えきれなかったんだ…とは言えない柳だった。






 

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