□Present
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顔や手が冷たい。

この撫でるというよりは突き刺さってくるみたいな風は、どうにかならないもんかね。

手は上着のポケットに収め、身を縮めた。

けど顔はどうしようもないから、ひたすら耐える。

「…寒い」

こんな寒いなかプレゼント配るなんて、サンタクロースも大変だよな。

毎年来てくれて本当に有り難いぜ。

目の前のピカピカしたツリーを眺めながらそんな事を考えていると、背後から声がした。

「赤也…?」

その声に引き寄せられるように盛大に振り向くと、吃驚している月乃先輩と目が合った。

「月乃先輩!」

収まっていた手を冷気に晒し、俺は助走を開始する。

月乃先輩が一瞬たじろいだように見えたけど気にしない。

そのまま逃げられないように取っ捕まえてしまえば、こっちのもんだ。

「待ってたっスよ〜月乃先輩!」

「赤也っ…どうして?」

月乃先輩は俺の腕の中で動揺していて、脱出しようとはしなかった。

それをいい事に、俺はその体勢をキープしたまま話した。

「月乃先輩といたいから来たんスよ。ずっと待ってたっス!」

俺が伝えたかったのは、『月乃先輩といたい』方が主だったんだけど、月乃先輩はどちらかというと『ずっと待ってた』って方に強く反応してしまったらしい。

俺が表情を窺うと、申し訳無さそうな、困ったような顔をして俺を見上げた。

「こんなに寒いのに…?風邪ひいたらどうするの?」

「平気っスよ!」

「もう…」

「…迷惑っスか?」

期待した反応とは少し違ったから、俺は恐る恐るそう聞いていた。

月乃先輩は首を横に振って

「寒いなか待たせてごめんね」

と、俺の頭に手をのばした。

優しく撫でられると、心臓が震えて、熱くなる。

こういうの、ガキみたいでイヤな時もあるけど、月乃先輩が喜んでくれたって事だから、今は悪い気はしない。

寧ろ心地良くて、俺は目を細めていた。




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