□仕返し
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「あっ!」

部活前のストレッチをしていた俺は、跳び上がるくらいの勢いで立ち上がった。


両手に荷物を持った月乃先輩を見て、手伝ってやろうと思ったんだ。
特に、氷の入ったクーラーボックスは重そうだった。

でも、跳び上がる程の理由はそこじゃない。

俺が動こうとしたまさにその時、柳生先輩が月乃先輩に声をかけたからだ。

「重そうですね、香宮さん。私も運ぶのを手伝いましょう。貸したまえ」

――先を越された!!

今やろうと思ってたのにってよく言うけど、まさにそんな感じ。

でも俺はやる気を無くしたりなんかしない。

待ってくれよ柳生先輩!

それは俺がっ!!

「ありがとう」

月乃先輩の荷物が柳生先輩に渡る前に、俺はなんとか二人の間に立つ事が出来た。

「俺が持つっス!」

月乃先輩が肩からかけていたクーラーボックスを、半ば奪い取るように持ち手を掴む。

「俺が月乃先輩と運ぶんで、大丈夫っスよ」

柳生先輩には笑顔で言った。

「そうですか。では切原君、頼みましたよ」

「うぃっス!」

柳生先輩は嫌な顔をするわけでもなく、穏やかにそう言って離れて行った。

流石紳士。

「赤也?」

「これ何処まで運ぶんスか?手伝いますよ、月乃先輩」

柳生先輩は紳士だから誰にでも優しい。
月乃先輩を気にかけるのも特別な事ではないけれど…。

「ありがとう、赤也」

こればっかりは俺にやらせてほしい。

「どういたしましてっ」

荷物を運び終わると、月乃先輩はまた「ありがとう」と言った。

「言葉だけっスかぁ?」

半分冗談で、残り半分はちょっとした期待。

でも、俺の眼は何かしらの褒美をねだっていたらしい。

「赤也」

「へ?何スか?」

月乃先輩が俺に近づく。

半分だった筈の期待が、だんだんと大きくなった。

そして、月乃先輩は、俺の頭を…撫でた。

「は…?え〜っ!?」

何だこれ?
おつかい頑張ったガキみてぇじゃねぇか!

俺が期待したのはこういうのじゃねぇしっ!

「赤也ー!何をしている!練習を始めるぞ!!」

真田副部長が怒鳴る声が聞こえる。

ちくしょう…もう行かなきゃ!

「月乃先輩!」

「…?」

俺はコートに行く前に、月乃先輩の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。

「…っ!赤也っ?」

驚く月乃先輩を残し、逃げるようにコートへと走る。

「やり返したね」

途中、すれ違った幸村部長が、穏やかな笑みを浮かべて言った。

「へへっ!」

俺だって、いつまでもガキじゃないんスよ!






 

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