□本日限定
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「浦山ー!」

「何でヤンスか?」

「何のんびり着替えてんだよ!もう鍵閉めんぞ。早くしろよっ」

「ごめんなさいでヤンス〜っ」

慌てて制服に着替え、「お疲れ様でヤンス〜」と荷物を持って部室を出て行く浦山。
「気をつけて帰れよー」と声をかけたが、あいつ、聞こえたかな…。

ドアの隙間から一瞬見えた外は、もう暗くなっていた。

自主練し過ぎたか。腹減ったな…。

誰もいなくなった部室で、一人部誌を広げていると、…静か過ぎる…何だか凄ぇ孤独な感じがした。



コンコン――



「…っ?」

そんな中響いた、ドアを叩く音。

ちょっとびっくりして、入口まで歩いて行くと、遠慮がちにドアが開いた。

「こんばんは」

今度はもっとびっくりした。

「月乃先輩…!」

「入ってもいい?」

「あ、はい!」

会うのが久しぶり過ぎて、俺は呆然と月乃先輩を見ていた。

先輩達が卒業して、俺は三年になって、月乃先輩は今、立海大附属高校に通っている。

7月になって、俺は部長の仕事に精一杯で、だんだん先輩達がいないのにも慣れてきて、最近は会う事も少なくなったから…。

「さっきそこで、浦山くんに会ったの」

部室の中を懐かしそう見回しながら、月乃先輩は言った。

「赤也先輩はいつも遅くまで部室に残ってるって言ってた」

「そう…っスか」

「部長の仕事、頑張ってるって」

「浦山のヤツ…」

呟くと、月乃先輩は俺を見て微笑った。

「何か不思議な感じね。あの赤也が、今では立派に立海の部長を務めてるなんて」

「えー?それどういう事っスか!」

笑いながら軽口を叩く。

でも、何故だろうか。
いつもの調子で喋れない。

せっかく、月乃先輩が来てくれたのに。
久しぶりに会えたのに…。

「月乃先輩」

「何?赤也」

聞き返してくれたけど、顔が見れなかった。

「俺…」

何を言おうとしてる?

「…俺…っ」

俺は、何をしようとしてるんだ?

「月乃…」

顔を上げようとした時、頭に何かが触れた。

懐かしい感覚…月乃先輩の手。

一気に後輩だったあの頃に引き戻されて、涙が出そうになった。

「部長、頑張って偉いね」

そう言われた瞬間、堪らなくなった。

力いっぱい、月乃先輩を抱きしめていた。


「今日もお疲れ様。赤也」

「うぃっス…」

「頑張ったね」

「うぃっス…」

月乃先輩は、優しく俺の頭を撫でてくれていた。


「月乃先輩…」



本当は、不安だった。

俺に部長が務まるのか。
部長としてちゃんと出来てるだろうか。
俺なんかが部長でいいのか…って。



「俺、立派じゃないっス…幸村部長みたいに出来ないし…短気だし、すぐ問題起こすし…部員だってみんな…きっと、仕方なく…」

「赤也?」

言葉の途中、月乃先輩は言った。

「ちょっとだけ、休む?」

「へ…?」

どういう事かと、月乃先輩の顔を見る。

「今の赤也は部長じゃない。私の後輩の赤也」

「先輩…」






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