□後輩恋々
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「月乃先輩、此処どういう意味っスか?」

「あぁ、この訳は…」


期末テスト三日前の放課後、俺は英語を教わりに月乃先輩のクラスに押しかけた。

テスト前の為、部活は自由参加になっていて、
月乃先輩は出るつもりだったみたいだけど、勉強を見て貰うんだと言ったら、幸村部長のお許しが出た。

おかげで、俺は月乃先輩を独占状態。
そのまま、三年のこの教室で、月乃先輩に個人授業を受けている。


机一つ隔てて向かい合っている俺達。

先輩が教科書の英文に目を落とすと、更に距離が縮まる。

サラサラと揺れる長い髪から、シャンプーの香りが漂った。


良い匂い…触りてぇ…。


無意識に手をのばし、艶めく黒髪に指を……

「…?」

それに気付き、月乃先輩が顔を上げた。

「あ…っ」

ヤベェ…。怒られる…?

「あ…その…ゴミが、ついてて…」

「そう…?」

「へへ…っ」

俺は笑ってごまかした。

「…で。今の訳、ちゃんと聞いてた?」

「スミマセン…ちょっとぼーっとしてて…」

月乃先輩に見とれてて聞いてなかった、なんて言えねぇよな…。

「テニスなら、何試合も集中力続くのにね…」

「ハイ…ごめんなさい」

「ちょっと、休憩する?」

「え…?いいっスよ、大丈夫っス!」

「やり過ぎは良くないの。勉強も、テニスも、…格闘ゲームも、ね?」

「うっ…はい」

本当はやり過ぎって程勉強してたわけじゃない。
俺の事を気遣ってそう言ってくれるんだろうな。

まさか、格ゲーの事まで言われるとは思わなかったけど…。

「ねぇ、どうしてそんなに英語が苦手なの?」

「え?だって何か呪文みたいで、意味わかんないじゃないっスか。他の国の言葉なんて、どうでもいいっスよ!」

「テニス…部活で終わらせるつもり…?」

「へ…?」

「プロになる事は、考えてないの…?」

突然の質問。
俺だって、考えなかったわけじゃない。
だけど…今の俺には、抽象的過ぎて…。

「赤也?」

でも…、その瞳は、真っ直ぐ俺を見てたから…。


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