□向日葵( '08.8.4UP)
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近藤は今、向日葵に囲まれた小道を歩いている。
近藤よりも背丈の高い全ての向日葵が太陽を見上げている。
聞こえてくるのは、通りの向こうにある小川のせせらぎと、セミの声だけだった。
「静かだなぁ」
一人呟く近藤は、小さな家の扉の前に立った。
額の汗を拭い深呼吸した近藤は、
「ごめんください」
扉をノックすると同時に声を掛けた。
家の中からは何の反応も無い。
近藤はノックする手に力を籠めて、
「すいません、何方かいらっしゃいませか」
少し声を大きくして、中を伺った。
ガチャッと鍵を開ける音がして、扉が開かれた。
「やっと来たか、遅かったなぁ」
少し低めで心地よく響く声と共に、白皙の美丈夫が近藤を迎えた。
「トシ、やっと見つけた」
近藤はニッと、かくれんぼをしている鬼役の子供が仲間を見つけた時のような屈託の無い笑顔男に見せた。
その白皙の美丈夫は、三年前に近藤の元を去った土方十四郎だった。
「入れよ」
十四郎は近藤を招き入れた。
小高い丘の上にあるこの家は、窓を開け放つと心地良い風が部屋の中を吹き抜け、外の猛暑が嘘のようだった。
白いレースのカーテンが揺れる窓際の木製のベンチへ腰を下ろすと、
「飲むか?」
十四郎は台所から冷えた缶ビールを持って来て近藤の前のテーブルへ置いた。
つかさず近藤は缶ビールを手に取ると、一気に飲み干した。
「ぷはーっ、うまっ!」
生き返ったなぁと、口元を手で拭って再び十四郎へ笑顔を向けた。
近藤の飲みっぷりに圧倒された十四郎は、
「もう一本飲むか」
と、十四郎は手にあったもう一本の缶ビールを近藤に渡し台所へ戻り、つまみを皿に盛って来た。
そして、近藤の横に腰を下ろし自分も缶ビールを一口喉へ流し込んだ。
「で、いつ気が付いた」
十四郎は窓の外へ目を遣りながら近藤に呟いた。
近藤が向日葵畑を見てから既に二週間が過ぎていたのだ。
近藤も窓の外に見える向日葵を眺めながら、
「そりゃぁ、あの時」
「へっ、嘘つくな。俺の事なんざぁすっぱり忘れちまってたんだろう」
「ばれたか」
クスクスとおどけたように笑いながら、
「本当は、この向日葵畑を見た時トシ、お前の事を思い出してたんだ。でも、まさかと言う気持ちもあったから、今になっちまったよ」
しかし、凄いなぁと一面の向日葵を見渡し、
「これって、全部トシが植えたのか」
「ああ」
「トシ、ここに住んで何年だ」
「そうさなぁ・・・かれこれ二年ってとこかな」
「そっかぁ」
感慨深そうに答え、近藤は再び向日葵に目を遣る。
向日葵は夏の短い間の命を精一杯、太陽を追いかけて咲いている。

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