□Innocent Love ('08.11.16 更新)
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それから、近藤は監察の山崎と島田を使って十四郎の行方を八方手をつくして探したが見つかることはなかった。
昼間仕事をしている内はなんとか気が紛れて、十四郎の事を忘れる事が出来た。
しかし、夜ともなれば常に傍にいて自分を支えてくれた男。
大切で大切でかけがえの無い男。
その不在が、一層寂しさに拍車を掛けた。
その寂しさを紛らす為に、お妙の所に毎日毎晩通った。
虚しい行為だった。
お妙の攻撃に傷付いて帰ってくれば、十四郎の優しい眼差しが迎えてくれた。
その優しい手が癒してくれた。
今は、どんなに傷ついても誰も癒してはくれない。
体の傷は手当てをすれば癒えて行く、が、心の傷口は段々と広がるだけだ。
近藤も、十四郎を愛していた。
お妙に付けられた傷を手当てしくている十四郎の顔を見ているうちに、自分の気持ちを抑える事が出来なくなって思わず押し倒していた。
その時の戸惑う十四郎に、酒に酔ったふりをして、十四郎とお妙を間違ったふりをして十四郎の体を無理やり開いてしまった。
十四郎は、近藤が自分を抱くのは只欲望のはけ口、お妙の替わりと信じている。
近藤は、十四郎に惚れた女が出来たらこの関係を終わりにするつもりでた。
だが、その時に自分は心から祝福する自信がなかった、それならば深みに嵌る前に十四郎と別れようと考えた。
その決断は身を切るより辛い選択だった。
十四郎の幸せを考えれば、早ければ早い程よいのだ。
そして、あの日十四郎と交わった。
これが、最後。
これからは、どんなに近くに居ても触れる事は許されない。
そう思うと、十四郎の全てを自分の目に焼き付けようと、快楽で目が眩みそうになりながらもしっかりと十四郎を自分の頭に刻み込んだ。
今でも、別れ話をした時の十四郎の顔が浮かぶ。
平静を装いながらも、その瞳の奥には憂いを秘めたその目が忘れられない。
十四郎が真選組を出て行くとは思わなかった。
驕っていたのだ。十四郎はどんな事があっても自分の傍らから離れる事は無い・・・と。
近藤は今更ながら自分の浅はかさを悔やんだ。
・・・トシ、許してくれ。やっぱりお前が居ないと俺は駄目なんだ・・・


十四郎が真選組から居なくなってから1年近い経った或日、屯所で書類整理をしている近藤に監察の山崎から携帯が入った。
「おう、山崎君。どうした?」
「あっ、局長至急大江戸橋まで来て下さい。」
「大江戸橋?なんでだ」
「とにかく、急いで来て下さい。」
「お、おい!」
山崎は言うだけ言うと携帯を切った。
なんだあいつは、と思いつつも、山崎の酷く焦った声に、しかたねぇなぁと椅子の背凭れに掛けて置いた上着を取り部屋を出た。

大江戸橋に着いた近藤を、橋のたもとで山崎が手招きした。
「山崎君、何事だ」
大股で向かってくる近藤に、橋の上を窺っていた山崎が背を縮めろと手振りで合図をした、少し腰を屈んで山崎の横に来た近藤に
「局長、あそこを見てください。あっ、目立たないようにお願いしますネ」
「うん、どれどれ」
屈んだままの状態で首だけを伸ばし山崎の指した方向を見た。
歌舞伎町の入り口という事もあって、橋の上は多くの人でごった返していた。
橋の真ん中辺りに欄干に凭れてタバコを噴かしてしている長身の男が居た。
長い黒髪を赤い紐で緩く結わえ、黒のスーツをピッチリと着こなしている。
物憂げな表情で川面を眺めるその様子は一枚の絵のようで、行きかう人達は振り返りながらその男を見ていた。
「あっ、あれは・・・」
思わず驚きの声を上げようとした時、近藤の口は山崎の手で塞がれていた。
「しっ!気づかれちゃいますよ」
と山崎は近藤の口を塞いだ別の手の人指し指を自分の唇に当てた
「どうです。局長・・・間違いなく土方さんですよネ」
「ああ、髪型や服装は違うが、ありゃぁ間違いなくトシだ」
と、その場から出ようとする近藤の腕を捕まえて
「局長、待ってください。私も確かに土方さんだと思うですが・・・ネ」
そう言いながら次の言葉を躊躇する山崎に
「うん・・・なんだ、何かあるのか」
と、問いかけると
「あの人、俺の事覚えてないんですよ。ってか、知らないんですよ」
「はあ」
思わず気の抜けた声を上げてしまった近藤は
「覚えてないって・・・知らない? どうゆう事だ」
「ええ、実はさっき俺、偶然あの人にぶつかっちゃったんです。"大丈夫か、すまねぇ"って謝ってくれて、尻持ちついた俺に手を貸してくれましてネ、その時サングラス外したんで顔を見たら土方さんだったんです」
「なっ、やっぱりトシなんだろう」
と飛び出してその男の所に突進しようとする近藤の服を両手で掴み、必死に押さえ込む山崎は
「まだ、話は残ってますよ」
と力一杯近藤を引っ張って、息をハアハアと切らせながら
「俺、思わず"土方さん"って言ったら、初めて会うっていう様な目で″俺は土方だが、オメェ誰だ"て聞くんですょ」
「ふぅ〜ん」
気持は橋の上の男に行ってる近藤は山崎の話も上の空で聞いていた。
「そしたら、橋にいた数人の男達が俺の周りを囲んで物凄い殺気を漂わせて"土方さん、この男がどうかしましたか"ってあの人に聞くんですよ。」
そう聞いた近藤は首を伸ばして橋の上を見た。
確かに、十四郎とおぼしき男から少し離れた所に数人の男達が同じ黒のスーツを着込んでたむろしていた。
山崎も曲がりなりにも腕に自信のある真選組隊士だか、監察という仕事柄あまり目立つ事は出来ない、その為に此のように人通りの多い所で騒ぎを起こすのは得策では無いと判断して、人違いですと謝ってその場を離れ、直ぐに近藤に連絡したと言うのだ。
「そっかぁ〜」
近藤は山崎の話を聞きながらも、目はその男を見ていた。
あの日、十四郎の将来を思って別れ話をした。
が、それは自分の独りよがりだった。
ずっと、十四郎と関係を続けても、十四郎は自分を愛してはいない、只、俺の欲望のはけ口として割り切って関係を続けて居ただけなのだから、と思っていた。
それも、当然の事だ。
十四郎には、自分は卑怯にもお妙の身代わりだと思わせていたのだから。
しかし、今、あの日の十四郎の事を思い出してみると、もしかしたら十四郎は自分と同じ気持だったのでは無いかと思う事もあった。
別れ話をしたあの晩、平静を装ってはいたが近藤を見る十四郎の目には深い悲しみが漂っていた様な気がした。
その時の傷ついたような十四郎の顔を思い出し、近藤は後先を考えず飛び出していた。
「あっ、局長」
山崎の止めるのも間に合わなかった。

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