□別れ('08.1.14)
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秋空の中、勝太は剣術の鍛錬が終ってから歳三を誘って村はずれの神社へ遊びに出かけた。
「なっ、かっちゃん。剣術の稽古って辛くない?」
歳三は、落ちていた棒切れを見よう見真似で振りながら聞いた。
「そんな事ないよ、稽古してる時は剣術の事だけ考えてるし。それに、周斎先生や彦五郎さんも優しくしてくれるしネ」
「ふぅ〜ん」
気の無い返事をしながら、歳三は棒切れを振るのに夢中になっていた。
「歳・・・」
「うん、何?」
クリクリと輝く瞳を勝太に向けた。
その無垢な顔を見たとたん勝太は言葉を飲み込んだ。
「ううん、なんでも無い。歳、そん振り方じゃ駄目だよ」
後から歳三の体を包み込むようにして、歳三の両手を握った。
実は、勝太には周斎から剣術の才を見込んで養子に欲しいと請われていた。
将来武士になりたいという夢がある勝太には願ってもない話だった。
が、自分が周斎の養子になってしまえば、江戸の試衛館に行かなければならない。
幼なじみの歳三は、勝太に友達以上の好意を持っている事を知っていた。
また、勝太も歳三の事を好いていた。
幼い二人には、まだまだ恋と言うには幼い想いだった。
そして、人見知りの激しい歳三の友達と云えば勝太一人だけだった。
そんな歳三を一人残して江戸に行くのは躊躇われた。
「歳も剣術やれば良いのに、楽しいぞ」
もし歳三が剣術を始めれば一緒に江戸に行く事が出来るかも知れないと子どもながら考えたのだが、
「駄目だよ、のぶネエが駄目だって言うに決まってるから」
少し寂しそうな顔で答えた。
「でもよ、彦五郎さんから言って貰えば大丈夫なんじゃねぇの」
「ううん、前に彦五郎さんがかっちゃんが剣術習ってるから俺も一緒にどうだってのぶネエに聞いたら、まだ歳三には早すぎますってこーんな顔で怒られてたんだ」
と、歳三は両手の人指し指でこめかみを押さえグッと上に持ち上げて釣り目にした顔を勝太に向けた。
その顔を見た勝太は一瞬驚いたが、すぐに吹き出し二人で腹を抱えて笑った。

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