□絆
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「歳!!」
飛び起きて、
「誰か居ないか、誰も居ないのかぁ!」
障子を勢い良く開け、屯所中に響き渡るように怒鳴った。
それまで、睡眠を貪っていた隊士達は其々の部屋から飛び出して、近藤のただならぬ様子に動揺した。
「近藤さん、どうしました?」
近藤の部屋の前にいる隊士達を掻き分けて、総司が寝ぼけた顔で聞いて来た。
「おお、総司。歳は何処に居る」
「土方さんなら、休息所に決まってるじゃないですか。休息所をもってからずっと、毎晩あちらですよ」
と暢気な声で答えた。
「そうか、山崎君か島田君は」
「監察の二人は、土方さんの指示で何かを探ってるようで、最近屯所じゃ見かけませんがね。近藤さん、それより土方さんがどうかしましたか?」
暫く、手を顎に当てて思案していた近藤は、
「総司、直ぐに一番隊は出動だ。いいな、直ぐだぞ。俺も行く、用意しろ!」
そう言い終わると近藤は自室に入って行った。
近藤が次に出て来た時には、一番隊は既に中庭に整列していた。
「それでは、行くぞ!」
近藤が号令を掛けると、総司が
「近藤さん、何処に行くのですか?」
「決まってる、歳の休息所だ。早く行かねば手遅れになる」
切羽詰った声で言った。


近藤と総司そして一番隊隊士は、歳三の休息所に向かって走った。
休息所に着いた時は、空は白々と明け初めていた。
休息所はひっそりと静まり返っていた。
近藤は、一番隊に家を取り囲むように指示し、自分は総司と一緒に家の中に入った。
中は惨憺たる状況だった。
あちこちに浪士達の死骸が転がり、襖は破れ家財道具は所狭しと散らばり、柱には刀傷があった。
「歳!歳!何処だっ、何処にいるっ!」
・・・かっちゃん・・・
近藤の頭の中に歳三の声が響いた。
・・・かっちゃん・・・
その声に導かれるように近藤は奥の部屋へと足を踏み入れた。
折り重なるようにある浪士達の屍の中に、肩からザックリと斬られ倒れているお染を見つけた。
お染の体を抱き起こし、声を掛けたが既に事切れていた。
「歳!としぃぃぃぃぃ!」
近藤は必死に、歳三を呼んだが、歳三からの答えは無かった。
・・・かっちゃん・・・
また、近藤の頭に歳三の声がした。
近藤はふと、後ろの暗がりの中に目をやった。
すると、其処には近藤が一番心配した歳三の姿があった。
駆け寄り歳三の体を起こすと、歳三のわき腹辺りから大量に出血していた。
歳、歳と声を大にして呼びかけると、それまで閉じられていた瞼が薄っすらと開かれた
「こっ・・・こんど・・・うさん・・・お・・おそ・・・かった・・・な、ずっ、ずっと・・・呼んでた・・・き・・・聞こえなかったの・・・か・・・」
歳三は血で汚れた手を近藤の頬に添えた、そしてその上から近藤が自分の手を重ね、愛しむように頬ずりした。
「ああ、歳、聞こえたぞ。聞こえた、遅くなって済まん。今、連れて帰るからしっかりしろ」
「・・ああ・・・」
そのまま、歳三は意識を失った。
その様子を見ていた、総司は隊士を呼び歳三を運ぶように指示するが、近藤はそれを制して
「良い、歳は俺が連れて帰る」
といって、歳三のわき腹を自分の羽織を裂いてきつく縛り止血をし、歳三を抱きかかえた。
「総司、後の始末は頼むぞ」
近藤は総司に後を頼み、意識のない歳三を大事に抱えて休息所を後にした。

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