□★ 愛のキューピット・トシ V ★
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『恋愛:焦る事なかれ、今は駄目でも相手を想う気持ちが大事。いつかきっと報われる事もある。』

「けっ、結局駄目って事じゃぁねぇーの」
思い続ければ叶うと、将来お妙が振り向いてくれると期待に胸膨らませていた近藤の背後から、それを否定する言葉が飛んで来た。
聞き覚えのある声にギョッとして振り向けば、やはり黒いスーツをぴっちりと着込んだ色白の美男子が近藤の肩越しにおみくじを読んでいた。
「なっ、なんで貴方が此処にいるんですかぁ」
その男は愛のキューピット十四郎。
愛のキューピットなのに、この男の口からは近藤の恋愛に対して否定的な言葉しか出て来ないのだ。
近藤はおみくじを引く時に胸に十字を切って祈った。
「どーぞ、キューピット十四郎さんが現れませんよーに・・・アーメン」
すると、何時もならおみくじを引いた瞬間に現れるキューピット十四郎が出現しなかったのだ。
ホッと胸を撫で下ろして、近藤は大事におみくじを持ち帰った。
家のちゃぶ台の前に座り、おみくじを眺めながらニヤニヤと顔中の筋肉を緩め、近い将来に約束されたお妙との生活を想像していた。
「みっともねぇーぜ、鼻の下伸ばしやがって」
幸せな気分を台無しにされた近藤はおみくじを握り締めて、
「駄目じゃぁ無いですよ。ほら、良く見て下さい。いつかきっと報われるっと書いてあるでしょ」
キューピット十四郎に抗議した。
「良く読めよ気持ちは判るけどよぉ。報われるって断定してねぇーよなぁ、事もあるって書いてあるんだろう、かも知れねぇっていう希望的観測だろうがぁ」
キューピット十四郎は胸ポケットから取り出したタバコに火を点け、フーッと煙を吐き出した。
「希望的観測でも良いんです!ちょっとでも希望があるなら、頑張れるんですぅ」
「そっかぁ・・・でも、お妙は無理でも、あんた結構もてるなぁ」
吐き出した煙を眺めながら、キューピット十四郎は呟いた。
その呟きを近藤は聞き逃さなかった。
「えっ?俺がもてる・・・」
一瞬その言葉に喜んだ近藤だったが、
「また、動物園のゴリラだったりしてぇ」
ガックリと肩を落として落ち込んだ。
「いや、人間だぞぉ。それも一人じゃぁねぇ・・・すげぇ、五・六人は居るぞ。ほら見ろよ」
キューピット十四郎は、近藤の目の前にタバコの煙を吐き出した。
自分を好いてくれる人間の女性が五・六人も居ると聞いて、期待一杯でキューピット十四郎の吐き出した煙を見た。
煙の中に除々に人の形が現れて来る。
段々と輪郭がはっきりとして来た。
キューピット十四郎の言う通り、五・六人はいる、それも待望の人間の女性だ。
どうやら、ドレスや和服を纏っているらしい。
瞬きもせずに近藤は煙を凝視していた。
すると、突然近藤は、
「わぁーーーーーっ」
大声を上げ両手をバタバタさせて煙を払ってしまった。
「おい、どうした」
大声を上げてちゃぶ台に突っ伏して泣きじゃくる近藤の肩にキューピット十四郎は声を掛けた。
「酷いじゃないですかぁ、俺ってそんなに女に縁がないの」
顔を上げずに泣きながらキューピット十四郎に訴えた。
何が起こったのか判らなかったキューピット十四郎は、再びタバコに火を点け煙を吐き出しそれを見てキューピット十四郎も唖然とした。
「こっ、これは・・・」

キューピット十四郎の吐き出した煙の中には、煌びやかなドレスや着物を纏って、ケバケバしい化粧を施した女達が浮かび上がって来た。
そして、その女達は・・・一応女・・・モドキ・・・の歌舞伎町のお姉さま方だった。


おわり

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