□★ 愛のキューピット・トシ U ★
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「ああ、今日のお妙さん強烈だったよなぁ〜」
近藤は今夜も、"運命の女(ひと)" に会いに無けなしの金を叩いてスナック・スマイルに行ったが、今夜も本人の談によれば『彼女の愛情表現』と言う激しい攻撃を喰らった。
ヒリヒリと痛む真っ赤に腫れた頬を摩りなが、
「情熱の女(ひと)だからなァ〜」
他人から見れば、嫌われてるのが一目瞭然だが、愛は盲目、あばたも笑窪、田で食う虫も好き好きの例え宜しく、近藤にはそれがお妙の愛情表現として疑わない。
トボトボと夜道を歩くと、道端に道祖神があった。
それは、男女仲良く肩を抱き合い手を握りあっている。
「いいなぁ、仲良くてさぁ〜」
道端の道祖神の前に屈み、羨ましいと一人呟くと、近藤は両手を合わせて、
「道祖神様、お願いです。俺とお妙さんも二人の様にラブラブになりますよーーーーーに!」
語尾に一層の力を籠めて、パンパンと合わせた両手を叩く。
お願いネと、立ち上がるり後ろを振り返りざまに誰かにぶつかった。
「イテェ!」
「すっ、いすません」
灯りといえば夜空に輝く月灯りだけで、その人物は月を背に立っていたので近藤にはその顔を見る事は出来ないが
『あれ、どっかで聞いた事があるような声だけどぉ〜』
等と思いながら、
「暗くて気がつきませんで」
頭を下げてその人物の横を通り過ぎようとすると、
「オイ!待てヨ!」
その人物は近藤の襟ぐりを捕まえて引っ張った。
いきなり襟を引かれ、首を締められた格好になった近藤は
「グエッ・・・」
ヒキガエルが踏み潰されたような奇妙な声を上げて後ろに倒れそうになった時、襟を掴んでいた手が離され、
「おっととと・・・」
今度は突然後ろに引く力が無くなり、トットッと数歩よろめいてなんとか近藤は倒れるのを免れた。
「なっ、なにすんですかぁ〜」
首を締められた苦しさにハアハアと息を乱して近藤はその人物に抗議すると、
「何するんだって、そりゃぁ俺の台詞だァァァァ!」
逆にその人物に猛烈な勢いで怒鳴られて、
「ちっ、またテメェーかヨ」
その人物はチョー不機嫌な声で舌打ちをした。
「へっ?」
「また、テメェー場違いな所で願掛けなんてぇすんじゃねぇーーーーっ」
「ちょっ、すいません」
近藤は、その人物の肩を掴んで顔を月明かりの方へ向けた。
「エッ???もしかしてぇ、あの絶対に変な名前の愛のキューピット十四郎さん・・・ですか?」
プッと噴出しながら、キューピト十四郎の名前を言えば、
「てっ、テメェーーー今笑ったなぁぁぁぁ!」
「えっ、笑ってませんてぇ〜」
クックッと笑いを堪えて近藤は肩を揺らした。
テメェー笑いすぎだぁと憮然とした顔のキューピット十四郎は
「まっ、今回も無駄だと思うがよぉ、一応オメェーの願いってなんだ?」
黒いスーツの胸ポケットからタバコを取り出しながら近藤に聞いた。
涙目で笑いを堪えるの必死だった近藤は
「クックッそっ、そりゃぁ決まってるでしょぅ」
お妙とラブラブと腹を抱える近藤を横目に、キューピット十四郎はタバコに火を点けフーッと煙を吐き出す。
すると、そこには信じられない光景が映し出された。
「えっ、どっ、どっ、どうゆう事ぉぉぉぉ」
ワーンと泣き出しキューピット十四郎に縋りつく近藤に、
「オメー、いい加減諦めろっ。こりゃぁ脈ねぇーぞ」
キューピット十四郎は消えかかる煙を眺めながら気の毒そうに言いながら、その場に泣き崩れる近藤の肩に手をやった。
消え行く煙の中には、近藤の"運命の女(ひと)" お妙が道端の道祖神の様に銀髪の男に肩を抱かれながら、嬉しそうに寄り添っている姿が映っていたのだった。


 おわり

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