□ミヤコワスレ(後編) ('09.3.2)
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近藤は誰かに肩を担がれて歩いている。
担がれている肩と逆の腰に回されている手の感触が酷く懐かしく思われた。
・・・トシ?・・・
泥酔し焦点の合わぬ視界の中に燃えるような赤い色が目に飛び込んできた。
・・・神原君か・・・
近藤は薄れてゆく意識の中で、この男は何故こんなにも十四郎を思い起こさせるのか不思議に感じた。
今、自分に触れている神原から伝わる温もりは十四郎に似ている。
否、十四郎そのものの感触だと近藤は薄れ行く意識の中で思った。

静まり返った離れの部屋で近藤は目が覚めた。
いつもなら朝食の支度を済ませた紗江が起こしに来るが、今は出産の為に里帰りしている。
渡り廊下で繋がる屯所の喧騒は此処までは届かない。
布団から身を起こそうとした時、近藤の頭に激痛が走った。
「つっ・・・」
思わず両手を頭にやり、痛みが遠退くを待った。
痛みが治まるにつれて近藤はある事を思い出した。
飲み過ぎて泥酔した曖昧な記憶でそれが夢だったのか現実だったのかも思い出せない。
しかし、近藤は確かに聞いた。
近藤は再び布団に横になり、曖昧な昨夜の記憶を辿った。

夕べは紗江が里帰りして誰も居ない離れに一人きりで居るのが耐えられず近藤は一人で繁華街へと飲みに出た。
あちこちと居酒屋を梯子して、足元もおぼつかないまで飲み最後の馴染みの酒屋へ行ったまでは覚えていた。
それから先はどうしても思い出せない。
仕方ないかと、近藤は諦めて瞳を閉じた。
その瞬間に瞼に燃えるよなう赤い色が甦った。
「あっ、そうだ。確か神原君が迎えに来てくれたんだ」
近藤は閉じた両の瞼の上に片腕を乗せた。
近藤を抱えて歩く神原の手の感触が、十四郎を思い起こしていた事を思い出した。

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