□Cross-PuposesU ('08.2.13 完結)
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近藤は今日も上機嫌だった。
苦労して立ち上げた真選組は隊士も増え、親友の土方十四郎がしっかりと自分を補佐してくれている為、組織も充実してきた。
だが、何といっても今、近藤の顔を緩めているのは、”運命の女(ヒト)"と信じた女に長い間ストーカー紛いの行為を続け口説き落して、最近やっと付き合い出しばかりだからだ。
『……お妙……』
「?」
厠の個室で今日もアフター・ファイブは”運命の女(ヒト)"お妙の所へ飲みに行くか、それとも彼女を食事に誘おうか等と考えていた近藤の耳に”お妙”という単語が入った。
思わず何々と息を懲らして聞き耳を立てた。
「だってよぉ〜、あの女、局長と付き合ってんだろ、見間違いと違うの?」
「うんだよなぁ〜、でもあれって副長だと思ったんだけどなぁ」
「けど、それって遠目だったんだろ?揚句に後ろ姿だったんだろ、何かの見間違いだって」
「そっかなぁ、俺は副長に見えたんだがなぁ」
「まっ、確かじゃねぇーんだからあんまり人に言うんじゃねーぞ。もし局長の耳にでも入ってみろ大変な事になるからな」
「ああ…」
隊士達は近藤に気付く事なく厠から出て行った。
残った近藤は
…えっ、えっ?何の話し?確かお妙さんの事?って、なんでそこにトシの名前がでるんだ…
???だらけで厠の個室で暫く固まっていたが
「近藤さぁーーん」
総悟の呼ぶ声が聞こえ、
「おーっ、ここだ総悟」
と個室の中から叫んだ。
「いつまで、入るんでさぁ、見回りの時間ですぜぃ」
おっそっかそっかと厠から出て行った。

その夜、仕事が終わった近藤はお妙の勤めるスナック・スマイルに行った。
「お妙さぁーーん、来ましたよぉーーー」
全身にハートマークを発散してお妙に擦り寄った。
「あーら、ゴリラさん・・・失礼近藤さん。お仕事ご苦労さま」
近藤の言う所の菩薩の様に優しく微笑んだ。
その顔を見ながら強くもない酒を飲んでる近藤の顔は幸せいっぱいだった。
飲んでいるうちに、ふと昼間の厠での隊士達の話を思い出し
「そうだ、お妙さん。トシと会った?」
「えっ、副長さんと?いいえ、最近はお会いしてませんわよホホホ」
「そうですか・・・」
「副長さんがどうかなさいましたの?」
少し考え込んでいた近藤は、お妙に問い返されて
「いえ、何か隊士達が二人を見たって言うんで・・・いや、遠目で見ただけだっていうから人間違いでしょうアハハハ」
「そうですよ。私があなたと一緒なら判るけど、何で副長さんとご一緒しなきゃならないですの オホホ」
白く細い指で口を抑えコロコロと笑った。
お妙の一言に舞い上がった近藤は
「そうですよねぇ〜、うちの奴等はおっちょこちょいばかりだからぁ、アハハハ」
と豪快に笑いとばして、其れからは二人は他愛も無い話をして楽しい時間を過ごした。

・・・また、今夜もあの女の所に行ったのか・・・
ズキズキと痛む胸を抱えて十四郎は屯所を出た。
最近、十四郎は近藤の顔を見るのが辛かった。
あの女と付き合う様になってからの近藤の顔付きが優しくなった。
いつも鷹揚に構えている近藤は、その懐の深さが人を惹きつける。
しかし、内に秘めた激しさがある。
その激しさが時々表に出るときがある。
その険しさは、長年一緒にいる十四郎にしか判らない程の僅かなものだった。
その険しさが影を潜めている。
やはり、思いが叶って近藤の気持ちに余裕が出来たのだろう、女という生き物の存在は凄い物だと痛感させられた。
世の中は男と女がいて、それぞれが癒し癒され、護り護られて存在している。
自分がずっと抱いている感情はその、世の中の摂理に反することなのだとは判っている。
判っていても、諦める事の出来ないこの感情を持て余して、毎晩涙する自分が女々しく嫌になってしまう。
出来るなら、近藤の居ない所に行ってしまいたい衝動に駆られる時がある。
それでも近藤の近くに居たい、傍らに居たいとう気持ちに負けて、せいぜい、屯所から出て通いにする事ぐらいしか出来ない自分が歯痒く情けない。
途中コンビニで夜食と明日の朝食用にとマヨネーズとタバコを買って、帰る足取りはいつになく重くマンションが殊更遠く感じた。
マンションに付いて十四郎は疲れた体をそのまま床に転がした。
天井を見上げながらタバコに火を点け、また愛しい男の顔を思い浮かべた。
きっと、今ごろは幸せそうな顔をあの女に向けているんだろうなと思うと。
また、胸の痛みが襲って来た。
それは、息が出来ないほど激しく、もしかしたら、このまま自分は窒息死してしまうのではないかと思えるほどだった。
アンタを想いながら死ぬのなら、それも良いと目を瞑る。
いつしか、瞑った十四郎の目から涙が一筋流れて床に落ちた。

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