□★ 薄紫の香り ★('08.5.6)
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近藤と十四郎は藤の花で有名な公園を訪れた。
五月の連休で、園内は人混みでごったがえしている。
白い藤、紫の藤、そして珍しい黄色い藤、其々があちこちに藤棚で設えられている。
棚から下がる藤の花は、誇らしげに棚一杯に枝を広げて惜しげもなくその美しい姿を披露している。
その棚の下で人々は写真を撮ったりしている。
人混みではぐれないようにと二人は指を絡めて手を繋ぎ、肩を寄せて歩く。
私服の近藤はラフなジーンズ姿、ガッシリした体が逞しい。
細身の十四郎は、襟から胸元まで大きなフリルで飾られた薄紫のブラウスに黒のスラックス。
二人の行く先々で、周囲の強い眼差しが注がれる。
そして、ひそひそと囁きあう声。
『ねぇ、映画でも撮影してるのかしら』
『ファッション雑誌から抜け出て来たようなカップルね』
それは、羨望と嫉妬の視線。
そんな周囲の反応に耐え切れなくなった十四郎が、
「勲さん、疲れたわ」
近藤の胸に凭れて囁く。
「じゃ、何処かで休もうか」
近藤は胸に凭れる十四郎の背に手を遣って、休む場所を探す。
園内にあるベンチというベンチは全て塞がっている。
余りの人の多さに、腰を下ろす場所さえ無い。
「トシ、出ようか」
コクと頷く十四郎を人込みから庇うように近藤は十四郎の肩をそっと抱き寄せる。

疲れきった十四郎を気遣いながら近藤は休む場所を探した。
公園から少し離れた場所、竹林に囲まれた小路の奥にひっそりと建つ茶屋。
先ほどの公園の喧騒も届かない静かな茶屋。
良く見ると、純和風の建物の周りには藤棚がる。
此処にも、薄紫の藤の花が今を盛りにと咲き誇っている。
その茶屋の一室へと案内された。
二間続きの部屋。
紅殻塗りの壁、黒く塗られた柱。
隣の部屋には、二つ並んだ枕が置かれた絹の布団。
この茶屋は、人目を忍ぶ恋人達の逢瀬を重ねる場所・・・出会い茶屋。
近藤は布団に十四郎を横たえる。
窓を開けると、心地よい風が入り込むと同時に藤の花の甘い香が漂って来くる。
部屋の中に甘い香が充満する。
その香に誘われるように近藤は横たわる十四郎の薄く開かれた唇に口付ける。
しだいに深くなる口付けに、近藤の体に熱い感情が湧き上がる。
「トシ、良いか?」
「勲さん」
近藤の無骨な手が十四郎のブラウスのボタンをゆっくりと外していく。
次第に露わになる十四郎の白い肌。
白い肌の中にある小さな突起を弄る。
近藤に塞がれた十四郎の唇から、甘い吐息が漏れる。
十四郎は近藤の首に両手を回して、自らも近藤の唇を吸い上げる。
そして、十四郎も近藤のシャツのボタンに手を伸ばす。
近藤の露わになった逞しい胸を両手で優しく撫でそして口付ける。
次第に十四郎の体にも熱が篭り、潤みを帯びた瞳が近藤の理性を吹き飛ばす。
藤棚の花を揺らす風の音と、二人の熱い吐息だけが部屋の中を支配して行く。

シュッシュッと静かな部屋に響く衣擦れの音。
爽やかな五月の風が開け放たれた窓から部屋へ流れ込んでくる。
薄暗い部屋から近藤は窓へと眼を向けた。
窓の外に咲き誇る薄紫の藤の花。
窓一杯に垂れ下がる薄紫のベールをバックに浮かび上がるのは愛しい人十四郎の後ろ姿。
窓に凭れて乱れた髪をその白く細い指が掻き揚げる。
少し傾けた頭に手を遣ると、肩から羽織っただけのブラウスの襟がずり落ちてその白い肌があらわになる。
先ほどまでお互いの情熱を交し合い火照った体がその白い肌を桃色に染めている。
薄紫の藤の花と、桃色に染まった十四郎の肌の色が近藤に新たな熱を呼び起こす。
気だるい体を引き摺り、十四郎を後ろから抱き締める。
「あっ」
褥の余韻に浸りながら、火照る体を冷やそうと風に当たりに窓辺へと来た十四郎だったが、思わず咲き乱れる藤の花に見惚れていた。
突然後ろから抱き締められて驚く十四郎は小さく声を上げた。
「トシ、綺麗だ。愛してるよ」
耳元で優しく愛の言葉を囁かれ、赤く頬を染める。
十四郎は顔だけ近藤に向けて、赤く熟れた唇で近藤の口付けを待つ。
「トシ、も少し此処に居よう」
「ええ」
近藤は十四郎をだきあげ、再び褥へ戻った。



END

★今回はちょっぴりエロ風・・・頑張りました。
 私にはこれが限界です(笑)

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