□★Christmas Eve★('07.12.24)
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今夜は恋人達の聖夜、クリスマス・イブ。
寄り添う様にイルミネーションの輝く町を歩く沢山のカップル。
其の中で一際目を引く一組のカップルがいた。
男は背が高く、ガッシリとした体格、少々厳つい顔だが人懐こい笑顔を浮かべている。
女も背が高く、肌の色が白く綺麗な二重の切れ長の目、鳶色の瞳、小さく形の良い紅い唇、黒く艶やかな髪をきっちりと結い上げ、その髪には近藤がこの日のために贈った金のベルが二つ付いた真っ赤なポインセチアの花の髪飾りで飾られていた。
そして、フード付きの真っ赤なロングコートに、白のロングブーツ。
コートは真っ白なファーで縁取られていた。
行き交うカップルは皆、二人に目を奪われた。
肩を寄せて仲良く歩くこのカップルは、真選組局長近藤勲とその彼女だ。。
「寒くないか」
と近藤が彼女の肩を抱き寄せると、あっと小さく声を上げ
「大丈夫だから」
離れようともがくと髪のベルがカラコロと鳴る。
「良いから」
近藤は抱き寄せる手に力を籠める。
もがくのを諦めた彼女はそのまま体を近藤に凭れて歩く。
彼女は近藤に腰に手を回し空いて居る手を近藤の胸に当て、すっぽりと近藤の腕の中に包まれた形になった。
お互いの体温が伝わり、真冬の寒さを感じなかった。


すっかり二人の世界に浸る近藤達の後を数人の男がつけていた。
「そろそろ時間だな」
近藤が腕時計を見た。
時計はもう直ぐ午後10時を指す所だった。
「良いか。走るぞ」
声を掛けられた彼女は、
「何故?」
訳が判らず近藤の顔を見上げた。
「良いから、走れ!」
近藤は彼女の手を取って突然走り出した。
後をつけていた男達は慌てて二人を追った。
ヒールの付いたロングブーツでは足元が危なく、近藤のペースで走る事が出来ない。
カラコロと彼女の髪飾りのベルが鳴る。
「あっ!」
必死に近藤に付いて行こうと走っていた彼女が歩道の窪みに足を取られ転びそうになった。
慌てて近藤が彼女を抱き起こす。
「近藤さん・・・」
彼女が不安そうに近藤に体を寄せる。
まだ、男達は追いかけて来る。
咄嗟に近藤は、暗がりに身を隠した。
追いかけて来た男達は、そのまま通り過ぎて行ってしまう。
「もう少しだ。」
追っ手をやり過ごし、足を痛めた彼女を抱いて目的の建物の前に来た。


大江戸で一・二を争う有名ホテルの最上階のスィートルーム。
建物の角部屋、窓から見る大江戸の夜景は漆黒の闇の中に色とりどりの町の明かりがキラキラと煌いている。
近藤は彼女をソファーに座らせて、彼女のロングブーツを脱がせ痛めた足首を濡れたタオルを当てた。
「ごめんなさい」
すまなそうに謝る彼女に
「俺こそ、急に走らせたからな・・・悪かった」
「ううん」
頬を染めて首を振ると、髪飾りのベルがカラコロと鳴った。
「急に走れなんて、驚いたわ」
「仕事が終れば自由時間だ。今夜はこの部屋予約してたからな」
近藤はテーブルのキャンドルに火を点け、部屋の電気のスイッチを切った。
キャンドルの仄かな明かりの他は、遠くに輝く町の明かりだけ。
窓際に寄れば、寄り添う二人は漆黒の夜空に浮いているような感覚に陥る。
「綺麗!」
感嘆の声を上げる彼女の横で、近藤は彼女の左手を取りその掌に唇をあてる。
二人の左手の薬指にはシルバーのリングが輝いている。
この世でたった一つのリング。
裏には二人のイニシャル、表にはマヨネーズとゴリラの顔が刻まれている。
彼女が一生懸命にデザインを考えた物。
二人の愛を繋ぐ愛のペアリング。
「おいで」
近藤が優しく彼女をベットに誘う。
はにかみながら彼女はコートを脱ぐと、真っ白なシルクのドレスが仄かなキャンドルの明かりに浮かび上がる。


ホテルの外では追っ手の男達がいた。
「このホテルに入ったと言う情報ですが・・・」
「ちっ、しょーがねぇ。もう仕事も終ったからなぁ、俺達も帰ってクリスマス・パーティーでもするかぃ」
追って来たのは沖田と一番隊の隊士たちだ。
局長と副長がカップルを装って、町の警戒をしていたのだ。
仕事とはいえ、真選組のトップ二人が無防備に町を歩いては危険と離れて警護していたのだ。
「しかし、あの二人すっかり仕事忘れてませんでしたかぁ」
「バカプルの見本でぃ」
沖田はホテルを見上げて、帰るかと隊士達を促した。
町にはまだ、賑やかにクリスマス・ソングが流れていた。

   
END

キリク記念小説に微妙にリンクしてます。

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