□絆
1ページ/4ページ

歳三が休息所を持った。
それは、幹部会議の時に唐突に言い出された。
皆は、男が見ても惚れ惚れするような色男の歳三が女を寄せ付けないのが不思議だった。
堅物の歳三が休息所に女を住まわせる・・・つまる所それは、歳三がまがりなりにも所帯を持つと言う事だと、もろ手を上げて喜んだ。
が近藤だけは、どうしても心から喜ぶ事が出来なかった。
それまで、歳三は何があっても近藤に相談していたが、今回の事は寝耳に水だったからだ。
自分は、既に吉原の太夫を囲っているのだらか、歳三に本当に惚れた女が現れたのを祝福しなければならないと思いつつも、心は沈んでいった。
その女は、お染と言い、歳三がよく使う料亭の仲居だった。
何事にも控え目だが、薄っすらと化粧を施し、その黒髪をキリッと結い上げている姿はほんのりと色気を漂わせている。
歳三の好みに遇わせているのか、着物も地味な物ばかりを着ていた。
近藤が歳三の休息所に招かれた時にも、歳三の横にひっそりと寄り添いかいがいしく歳三の世話をしていた。
歳三もお染には、屯所では、いや長年の付き合いの近藤にですら見せた事の無い柔らかく優しい表情で接していた。
何処から見ても仲睦まじい夫婦だ。
近藤は歳三の幸せそうな顔を見て安心する一方で、心の奥底にどす黒い嫉妬の念が沸き上がってくるのを抑えられなかった。
お染を囲ってからは、歳三は非番の日は勿論、仕事が終ると休息所に帰り、明け方早く屯所に戻るという生活になった。
近藤は、常に自分の傍らにあり続けるはずの歳三が自分から離れてしまった事に一抹の寂しさを感じて居た堪れなかった。


歳三が休息所を持ってから、二ケ月程たったある夜。
近藤は、突然目を覚ました。
誰かに呼ばれたような気がしたからだ。
・・・かっちゃん・・・
そう、その声は紛れもない歳三の声だった。
・・・かっちゃん・・・
その声は、助けを求めるような弱々しい声だった。
自分は以前同じ声を聞いた気がする。
それは、上洛する以前、歳三が原因不明の病で生死を彷徨ったときだ。
その時も歳三は自分を呼んだ。そう、今回の様に声に成らない声

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ