□俺の嫁さん
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「こんにちわーっ、勝太です。歳居ますかぁーっ」
俺が玄関で声を掛けると、奥からドタバタと走って来る音がする。
そして、キャーッと脳天を突き抜ける様な黄色い歓声が上がって
「かっちゃん、かっちゃん」
と、両手を広げこれ以上の幸せは無いと言った風の満面の笑みで俺に抱き付いてくる歳
可愛いなぁ〜と思いながら歳の頭を撫でる
ピトっと両手を勝太の背中に回して張り付いて離れない歳
後から、歳の姉さんが帯を持って慌てて追いかけて来た。
「歳、まだ帯結んでないから・・・。これ歳、勝太さんから離れなさい」
「かっちゃん、遅かったな。俺ずーっと待ってたんだぞ」
おのぶさんが俺から引き離そうとするが、シッカと抱き付いて離れない歳に
「歳、ほら、きちんと着物着なきゃ遊べないぞ」
「うん、判った。それで、今日は何して遊ぶ。俺ね、昨日のぶネエにあや取り教わったぞ。お手玉もできるぞ」
と、目をキラキラさせて俺に顔を向ける。
あまりの可愛さにドキドキする。
でも、歳の言ってる遊びって女の子のばっかりだ。
姉のおのぶさんがいつも遊びの相手をしている為に、家の中で遊ぶ事が多かったから自然そういった遊びしか覚えなかった。
「かっちゃん、部屋に行こう」
と、その細い手が俺の手を取った。
歳の顔といい、その格好といい・・・どう見たって女の子だ
俺は、つい女の子と手を繋いでる錯覚に陥って、カーッと顔が赤くなるのを感じた
「かっちゃん? どーしたの、顔真っ赤だよ」
その、クリクリとした可愛い目が俺を覗き込む
「なっ、何でもない。なーんか今日は暑いなぁ〜」
と、歳の顔から目を逸らして自分でも訳の判らない言い訳した
クスクスとその様子を見ていた。おのぶさんが口元を抑えて笑った


夕飯の時も、俺から片時もはなれず。
「かっちゃん、これ好きだろう。ほら、あーん」
まわりからクスクスと笑う声が聞こえる
「歳、勝太さんが好きなのねぇ」
「うん、大好きだからネ。俺大きくなったらかっちゃんの嫁になるんだ」
うっ、ゴホゴホ・・・歳の発言に俺は今歳が運んでくれた芋を咽に詰まらせた
「まっ、歳。歳は男の子だからお嫁さんにはなれないのよ おほほほ」
おのぶさんはその綺麗な手を口元に持っていって笑った。
「昨日、のぶネエが言ったじゃないか。のぶネエは彦五郎さんが大好きだから、ずーっと一緒にいられるようにお嫁さんになるって」
歳はぷーっと頬を膨らませて言った。
「まっ、この子ったら」
今度はおのぶさんの顔が真っ赤になった。
「だから、俺かっちゃんのお嫁さんになるんだ。ねぇ、ねぇ、かっちゃん良いだろう」
「歳・・・でもなぁ」
「なんだよ、かっちゃんは俺のこと嫌いなのか」
さっきまでキラキラと輝いていた瞳が、不安に揺れた
「そっ、そんな事ないけど・・・でもさ」
いくら俺が子供だからって、男が男を娶るなんて出来る訳がない事ぐらい判るが、歳の目に見る見る涙が溢れてくるのを見て
「うん、歳は大きくなったら俺の嫁さんだぞ」
「きゃーっ、かっちゃん。ホント、ホントだからね」
俺の首に両手を回して抱き付いて、挙句の果てに俺の頬にチュッとその可愛い唇を当てた
「あっ・・・」
俺は茹蛸のように真っ赤になってるのが自分でも判る。
「歳、良かったわねぇ〜。勝太さん、歳を宜しくね」
なーんて、おのぶさんから言われてしまった。
周りの大人達も、
「おおっ、勝太。歳は美人だからな今の内に約束して無いと、誰かに横からかっさらわれちまうぞ」
「歳、お前も勝太をしっかり捕まえておけよーっ」
「ハーイ」
ニコニコと周りに愛想を振りまいて歳が返事をした。


結局、俺はそのまま歳の家に泊まる事になってしまった。
なぜなら、あれから歳は大人達に良い様に乗せられて、はしゃぎまくり疲れて寝てしまった
それも俺の手をシッカと握ったまま。
歳の可愛い寝顔をみながら、俺の嫁は歳でも良いな・・・なーんて子供心に思ってしまった。


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