□肝試し
1ページ/1ページ

「歳、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ、かっちゃんと一緒だから。ねっ、かっちゃん」
ニコニコと嬉しそうに満面の笑みで勝太の顔を見る。
勝太と言えば、そんな歳をこれまた顔の筋肉を全て緩めて歳三の問いに答える。
「心配しないで、おのぶさん。俺が歳を護りますから」
「のぶネエ、心配すんな。俺だってもう六歳なんだぞ」
「でもねぇ」
のぶの心配を他所に、いってきまーぁすと元気良く村はずれのお寺に向かった。

お寺の境内には、近隣の子供達が集まっていた。
境内の中心には篝火が焚かれ、その周りに円陣を組んで座った。
まずは、大人達から怪談話を聞いてから、それぞれ二人づつになって墓地の奥に置いてあるお札を取って来るのが決まりだった。
篝火の灯りが明々と子供達の顔を照らし出していた、二・三歩円陣から下がると其処は漆黒の闇。
怪談話が始まる、大人達は子供達を怖がらせようと、様々な演出をした。
怪談を語る大人の顔を下から提灯で照らしたり、話の佳境に入ると境内の木々を揺すり物音を立てたりした。
それは、子供達の恐怖心を煽るには絶好の演出だった。
子供達はキャーッと恐怖の声を上げ、涙ぐむ者、震える者等が出て、大きく広がっていた円陣がだんだんと小さくなり、篝火の周りに一塊になってしまった。
その中で、一人胸を張って平然としている子供がいた。
それは、勝太だった。
内心は怖くて怖くて仕方無かったが、歳三が勝太に抱き付き顔を勝太の胸に埋めて、時々大人を横目で恐るおそるチラッと見てはキャーッと叫んではしがみ付いてくる。
その、動作が可愛いくて仕方なかった。
そして、この可愛い幼なじみを護るのは自分しかなと恐怖をぐっと我慢していた。
そんな、勝太の気持など知らない歳三は、恐怖で勝太の胸に埋めていた顔を上げては勝太を確認した。
口を真一文字に結び、真っ直ぐに怪談を語る大人の顔を見て、歳三の視線を感じると大丈夫だといった風に歳三に微笑んだ。
それを見て歳三は安心して、そして一層勝太に抱きつくのだった。

いよいよ、墓地からお札を取ってくる事になった。
何組かの子供が小さな提灯をもって、真っ暗な墓地に消えていった。
暫くすると、墓地の奥からギャーッとかウォーとか子供達の叫び声が聞こえた。
その声を聞きながら待っている子供達は、さっきの怪談話が頭に浮かび其々想像力を発揮して自分で恐怖心を増強していった。
勝太は震えながらしがみ付く歳三の手に自分の手を載せて
「歳、大丈夫だからな、俺から離れるなよ。」
「かっ、かっちゃん・・・おっ、俺怖くなんかないからな。かっちゃんがいるから・・・・な・・」
「うん、大丈夫、大丈夫だ!!」
勝太は力を籠めて手を握り、歳三にというより自分に言い聞かせるように呟いた。

片手に提灯、もう片方で歳三の手を取り勝太は墓地に入っていく。
真っ暗な墓地の中を歩いて行くと、ガサガサと草むらで音がした。
ビクと体を強張らせ、提灯を音のする方向に向けようとするが、歳三がピッタリとしがみ付いている為に自由が利かない。
仕方なく、そろそろとすり足で前へ進むと、いきなり顔面に何かがピトと張り付いた。
「うんぎゃーっっっっっっっっ」 
物凄い叫び声を上げ、しがみ付いていた歳三の腕を振りきって勝太は夢中で走り出してしまった。
無我夢中で闇雲に走って気が付けば、歳三は居ないし、自分が今何処に居るのかも判らなくなってしまった。
唯一、提灯だけは持っていたが、自分が恐怖の余り歳三を置き去りにしてしまった事に気づき慌てた。
が、真っ暗い墓地にたった一人になった勝太は途方に暮れた。
戻らなきゃ、戻らなきゃと思いつつも、足が動かなかった。
すると、後からハタハタと足音がした。
ギョッと固まってしまった勝太は、提灯を落としてその場に頭を抱えて屈み込んでしまった。
だんだんと足音が近づいてくる、体中から汗が流れる。
「来るなぁぁぁぁぁぁ!来ないでくれぇぇぇぇぇぇ!」
思わず叫んでしまった。
すると足音が止った。
「・・・ちゃん」
聞き覚えのする声がした。
「歳?」
「かっちゃん、俺だよ。歳」
「歳、大丈夫だったんたな」
「うん、急に走り出すから俺ビックリしたぞ」
「ゴメン、ゴメンな」
「でも、俺一緒じゃ駄目なんか?」
「何で?」
「だって・・・、今来るなって言ったじゃないか・・・」
歳三は泣き声だった。
「そっ、それは・・・。歳、俺本当は怖くて怖くて・・・お前を置いてきちゃったんだ・・・ゴメン」
最後は聞こえないほど小さな声になった勝太だった。
「かっちゃん・・・大丈夫だよ。俺がかっちゃんを護ってやるぞ」
と、またピトッと勝太に抱きついた。
そして、歳三は近くの墓地から塔婆を引き抜いてそれをグルグル回し始めた。
「かっちゃん、行くぞ」
でも、その手は僅かに震えていた。
「歳・・・」
歳三は、左手で勝太の手を取って、右手で塔婆を振り回しなが
「おらおら、勝太様と歳三様のお通りだ!お化けなんか怖くなんかないぞ!出るもんなら出て来てみろ、この歳三様が退治してくれるぞっ!」
などと変な節をつけて恐怖を払い除けるように大きな声で歌いながら、迷路のような墓場を歩き始めた。
途中、ガサガサと音がすれば、その方向に歳三は夢中で塔婆を突っ込んで振り回した。
すると、グッとかギャッとか声がした。
結局、お札は持ち帰る事は出来なかったが無事に出発点の境内に戻る事が出来た。
「かっちゃん、戻ったぞ。俺達戻れた・・・ぞ」
「歳・・・よかっ・・・た」
と言うなり勝太と歳三はその場にへたへたと座り込んでしまった。
その後から、お化け役の大人達が数人あちこち擦り傷や、たんこぶを作って戻って来た。
「お前達どうしたんだ、その傷は・・・」
と境内に居た大人達が怪訝な顔で聞けば
「こいつら、まったくもう・・・変な歌いながら来るしよぉ、提灯持ってねぇから危ねぇと思って声掛けようとしたらよぉ、いきなり棒切れかなんかでぶっ叩きやがってよぉ・・・痛ててててっ、このバラガキめらが!」
と、一気に緊張が解けて気を失っている勝太と歳三を指さした。
その歳三の手にはボロボロになった塔婆がしっかりと握られていた。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ