□幼なじみ
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「かっちゃん、何怒ってんだ」
「怒っちゃいねぇーよ」
「でも、さっきから黙ってるでしょ」
と俺の歩く前に出て振り返り道を塞ぐ
「かっちゃん、ほんとに怒ってないの?」
「うん、怒ってないってば!」
突き放すように答えると
「やっぱり、怒ってんだ」
恐るおそる俺の顔を覗き込んで来るその瞳は不安に揺れている
俺の目の前にいるのは、俺より一つ年下の幼なじみだ
俺、宮川勝太 七歳
今日はこの幼なじみと一緒に村の祭に来ていた
色白でクリクリとした目、子どもにしはスッと形の良い鼻、小ぶりの赤い唇、黒い髪は肩の辺りで切り揃え、頭のテッペンを丸く纏め赤い紐で結わえ、白地に赤や青の花模様がある子供用に仕立てた浴衣を着て、赤い鼻緒の草履を履いていた
何処から見ても”可愛い女の子"・・・
でも、問題はこの幼なじみは男の子なのだ
その名前は土方歳三という外見とは想像もつかない厳しい名前の正真正銘の男の子なのだ
「俺は怒っちゃいないけど・・・歳・・・その格好なんとかならないの?」
「えっ、だってサ のぶネエがかっちゃんと祭に行くっていったらね この浴衣縫ってくれだんだぞ 似合ってねぇの?」
「でもさぁ・・・」
「のぶネエが言ってたぞ、大好きな人と出かけるときは精一杯お洒落するんだってさ」
それは、女の子の場合だろうって思いながら、歳に大好きと言われて俺は嬉しかった
この歳三は、生まれて直ぐに母親を亡くし父親も生まれる前に亡くなっているから、直ぐ上の姉のぶが歳三の面倒を見ていた
のぶはこの年の離れた弟が可愛くてしかたなかった
歳三は男の子ながら、生まれた時から女の子のような華奢な体つきと整った顔立ちでのぶは着せ替え人形のよう歳三を扱った
小さい時から女の子の着物を着せられていた歳三は、今の自分の格好に何にも疑問を持たなかった
お大尽の家に生まれた歳三と、他の百姓よりは幾らか食べるに困ることは無かった百姓の倅の俺とが何故か気があって、かっちゃん、かっちゃんと俺の後をついてまわる歳が可愛くて仕方無かった
今日も、歳の家に迎えに行って歳の姿を見たとき俺は、こんな可愛い姿を人前に晒すのが子どもながらにも我慢出来なかった
「だってさ、歳は男の子なんだぞ、それってどう見ても女の子の格好じゃないか」
「・・・」
俺の一言に俯いている歳の横をすり抜けて神社に向かって歩きだした
すれ違う人たちは歳三を見て
「まぁ、可愛い子だことホントお人形さんみたいねぇ」
「ああ、こりゃぁ将来が楽しみだねぇ」
等と勝手な事を言いながら通り過ぎた
『歳が可愛いの昔から知ってるさ・・・でも、おのぶさんもなんで歳にあんな格好させて、あまりの可愛さにかどわかされたりしたらどうするんだ』
などと、考えながら暫く行くと歳がついて来ていない事に気づき慌てて周りを見回した
歳三の姿は何処にもなかった
焦った俺は急いで今来た道を駆け戻った
暫く走って行くと、道の真ん中に赤い鼻緒の草履が片方が落ちていた
それは、紛れも無く歳の履いていた草履だ
全身から血の気が引く思いだった
かどわかされてしまったのかもしれない、と思うと心の臓が絞めつけらるように痛んだ
どうしよう、どうしようと頭の中は混乱した
また、暫く走るともう片方の赤い鼻緒の草履が落ちていた
それを拾い、また走って行くと今度は赤い紐が落ちていた
これは、歳の髪を結っていた紐だ
遠くに目をやると道のはじに白い物が見える。
近づくとそれは歳の着ていた浴衣
そして、そのずーっと先を褌一丁で泣きながら歩いてる歳が居た
俺は必死に走って歳に追いついて
「歳、どうしたんだ急に居なくなるから、かどわかされたかと思って心配したぞ」
「・・・」
「ほら、浴衣も拾って来たから」
浴衣を渡そうとすると歳は、俺の手を払い除けてグッと自分の腕で涙を拭うと俺の声など聞こえない風に歩みを止めなかった
「歳、どうしたんだ。風邪引くぞ」
「・・・なんだろ・・・」
「何?」
「かっちゃん、その着物嫌いなんだろう、俺の事嫌いなんだろう」
「えっ」
思わぬ歳の答えに思わず固まってしまった俺に
「俺は、かっちゃんとその着物着てお祭に行くの楽しみにしてたのに・・・」
ポロポロ涙を流してヒクヒクとしゃくり上げ、かっちゃんの嫌いな着物なんかいらいなから脱ぎ捨てたと泣きながら歳が言った
「歳、ごめんな。でもこの着物も草履も歳に似合って可愛いよ」
「嘘!」
「嘘じゃないよ」
「ほんと?」
涙に濡れた瞳で見上げられて、ドキドキと胸が高鳴り真っ赤になった俺は
「俺、歳の事大好きだから。この浴衣もものすごく似合ってるし・・・可愛いよ」
「かっちゃん、俺もかっちゃんの事大好きだからね」
「だから、歳お前に風邪でも引かれちゃ俺困るから。浴衣着てくれよ・・・ねっ」
と褌一丁の歳の肩に花模様の浴衣を掛けた
そのまま、俺達は祭には行かずに歳の家に戻った
道々、祭に向かう人たちには照れて無言のまま歩く俺と、顔を見れば女の子に可愛い子が褌姿に肩から花柄の浴衣を掛けてニコニコ手をついで歩く姿が奇異に写った。


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