□クリスマス・イブ
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部屋に戻っても、近藤と柊木が仲良さそう飲んでいる姿を思い出し胸の奥がムカムカとして落ち着かない。
十四郎は隊服を脱ぎ捨てると、素早く着流しに着替えて屯所を出た。
懐には近藤に渡そうと買って置いたクリスマスプレゼントのシルバーのペア・リングが納めらている。
リングの裏には、近藤と十四郎にイニシャルが入って、表には小さくマヨネーズとゴリラの顔が彫られた特注品だ。
半年も前から十四郎が直接ジュエリー店へ行き、無理やり作って貰った世界に一つしかないリングなのだ。
当ても無く歩く十四郎には、町の賑わいが辛い。
すれ違うのは幸せそうなカップルばかり。
「近藤さんの馬鹿野郎・・・・バカゴリラ・・・」
懐からリングを取り出し、掌に載せるとキラキラと街灯の明かりで輝いていた。
近藤の喜ぶ顔を想像しながら、デザインを考えた頃の自分が懐かしかった。
近藤の愛を純粋に信じていた、近藤は誰にでも優しい男だから、柊木にもそうなのかもしれないと思う気持と、本当に近藤の気持が柊木へと移ってしまったのではないと思う気持が十四郎の心を苛んだ。
何も考えたくないと当ても無く歩いて気が付けばいつの間にかレインボーの前に来ていた。
フラフラとレインボーのドアを開けると、年末近くましてやクリスマスという時期にして相変わらず客が居ない。
「いらっしゃい」
薄暗い店の中から、華月の明るい声が聞こえ十四郎は救われたような気分になった。
一番奥のボックス席が十四郎の定位置だ。
無言のまま座ると
「十四郎さん、今夜来るなんて思ってませんでしたわ。」
十四郎の前に水の入ったグラスとお手拭を置いて、
「今夜も燗酒で良いかしら」
本来なら洋酒しか置いてない店だが、華月が洋酒を好まない十四郎の為に特別に日本酒を用意している。
「ああ、頼む」
力無く俯いたまま答える十四郎を見て、今夜も近藤と何かあったのではないかと察した華月は
「今夜、クリスマスですから、ケーキ焼いてみましたの、召し上がる?」
「酒の肴がケーキ・・・か、何か変じゃねーぇか」
「マヨネーズよりはマシだと思いますけどねぇオホホホ」
「華月ィ〜、マヨネーズ馬鹿にすんなぁぁぁ」
十四郎が華月を捕まえようと手を伸ばすと、ひょいっとその手を避けてコロコロと笑いながら華月はカウンターの中へ入って行った。
カウンターの中の華月を見ながら、十四郎は俺は何してんだろうと自己嫌悪に陥る。
柊木に嫉妬し、近藤のみならず真選組の隊士達に八つ当たりしてしまった。
十四郎は仕事に私情を持ち込む事を嫌っていた、が、その一番嫌っている事をしてしまった。
本当に自分はなんて最低な男なんだ、そんな男に近藤が愛想を尽かすのも当然だと、十四郎は両手で頭を抱え込んだ。
「おまたせ」
燗酒を入れた徳利と杯、そして真っ赤に熟れた苺をのせたケーキが十四郎の前に置かれると
「俺、もう駄目だ・・・きっと、近藤さんは・・・」
辛そうに言葉を吐く十四郎は杯に自分で酒を注いで立て続けに二・三杯程咽に流し込こむと、懐からリングを取り出し愛おしそうに眺めた。
「あら、変わったリングネ」
十四郎の掌の中のリングを珍しそうに覗き込んだ。
「ああ、特注のペア・リングだ」
ぎゅっとリングを握り締め、十四郎はその握り締めた手をじっと見つめた。
其の時、店のドアが開き一人の男が入って来た。

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