□クリスマス・イブ
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町にはクリスマスソングがながれ、街路樹や店先は赤や青の色とりどりのイルミネーションで彩られて、家族連れやカップルで賑わっている。
そのカラフルな通りを黒尽くめの男達が歩いている。
真選組の隊士達だ。
「副長、綺麗ですねぇ〜。今夜はクリスマス・イブですよ。良いですねぇ〜俺彼女いねぇーから、この時期はすんげー寂しいです」
すれ違うカップを羨ましいぃとばかりに見送る山崎に
「うるせぇー!ふん、何がクリスマスだ。俺は先祖代々生粋の仏教だ。チャラチャラしてんじゃねぇ〜」
ヒッと、十四郎に怒鳴られ肩をすくめた。
女かと見紛うばかりの整った顔つきの十四郎ではあるが、常に瞳孔が開き気味で他の人からみれば目つきが悪く、その一睨みでどんな男はも縮み上がった。
今夜の十四郎は不機嫌極まりない表情で、眉間に普段より尚一層深い皺を刻み、鋭く威嚇するように周りの人々を睨む。
すれ違うカップルや家族連れは十四郎を避けて、否真選組を避け道を開けた。
「ああ、これじゃ、また俺達の評判が落ちるよ〜」
と一人ごちりながら十四郎の後に付いて山崎は歩いて行った。
その頃屯所では近藤を筆頭にクリスマスの大宴会の準備中だった。
「真選組は大江戸の治安を預かる組織だ。俺達に盆も正月ねぇ!」
と十四郎に一喝されて一旦は宴会はご破算になったが、そんな楽しい事を諦める近藤ではない。
クリスマスの夜の見回りはちょうど近藤が当っていたが、十四郎に押し付ける事に成功して、十四郎に気づかれ無いようにした準備をして今夜を迎えた。
十四郎が山崎達と見回りに出たのを確認すると、残っていた隊士達に号令をかけ会場準備となったのである。
十四郎が屯所に戻って来た頃には既に会場は出来上がり、宴会が始まっていた。
部屋中に電飾が張り巡らされ、サンタやトナカイ等といったクリスマス特有の飾付けで溢れ、その中心にドデカイクリスマスツリーとケーキが置かれている。
酒の入った近藤等は、何処から手に入れたのか赤と白のサンタの衣装を着てご丁寧に鼻の下と顎に綿のような白い髭を付けていた。
十四郎が会場に足を踏み入れると全員が十四郎に向かってパァァァァーンとクラッカーを鳴らし
ギョッと驚き身構える十四郎に
「トシィィィ、メリークリマァーーーーーース」
と近藤が抱き付いて来た。
抱き付かれた十四郎の米神に見る見る青筋が立ち
「近藤さん、アンタ何やってんだ・・・この前の俺の話し聞かなかったのかぁ」
冷たい目で近藤を睨むと
「聞いたヨ。でもなぁ、クリスマスだぜク・リ・ス・マ・スゥゥゥゥ〜」
十四郎の眼前に人差し指を立てて左右に振り、挙句ウインクをしながら変な節をつけて歌い出した。
「邪魔だ、退け!」
十四郎に絡まる近藤の体を跳ね飛ばし
「てめぇーらぁーっ!止めろ!」
ズカズカと部屋の中心にあったクリスマスツリーを掴むとそのまま廊下へ出て庭に投げ捨てた。
「トシ、何するんだぁぁぁ」
投げ捨てられたツリーを取りに庭に下りた近藤が振り返り
「・・・何て事するんだ・・・トシ。皆が楽しみにしてるんだ。お前にはそれが判らねぇーのか」
ギッと睨む近藤に怯みもせずに
「前にも言ったろうがぁ。俺達に盆も正月もねぇ。俺達が浮かれてたんじゃぁ、不逞浪士につけ込まれるって事が判らねぇーのか」
「トシ、お前の言う事も尤もだ。だがな、俺達だって明日は判らねぇー身だ。少し位羽目外したって良いんじゃねぇーのか」
クリスマスツリーを持って部屋に戻りながら近藤は擦れ違いざまに十四郎に呟いた。
「トシ、お前だって少しは楽しめ、そんなに張り詰めていたんじゃぁ身がもたねぇーぞ」
部屋の真ん中にツリーをよいしょと戻すと
「おー、悪かったなぁ。トシの許しが出たぞぉ、さぁークリスマスパーティーのやりなおしだぁ〜」
近藤が声を掛けるとワーッと歓声が上がり、再び宴会が始まった。
廊下から広間を見ると、近藤は隊士達に囲まれてご機嫌だった。
そして柊木が満面の笑みで近藤と注しつ注されつで酒を飲み、上機嫌の近藤は柊木の肩に手を回して引き寄せる。
少し驚いたような表情を見せた柊木ではあったがほんのりと頬を染めて、近藤のなすがままに体を預けてた。
そして呆然と廊下に佇む十四郎に目をやり、ニッと勝ち誇った笑みを浮かべた。
黙ってそれを見ていた十四郎はギリギリと奥歯を噛み震える両手を強く握り込む。
「アイツに近藤さん取れらちまいやしたねぇ」
いつの間にか十四郎の横にいた総悟がニヤニヤとしながら呟くと
「五月蝿い!!!!」
と怒鳴るとドカドカと足音を立てて十四郎は自室へと入ってしまった。

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